夜にサヨナラ【冨岡義勇】 (ページ27)

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毒になるか薬になるか② ページ27

「大丈夫ですよ、私、あの人に興味ないので」
「！……あ、あの、なんで分かったんですか」
「顔に出てますよ。"夫婦の真似事"と言いましたがしっかり想っているじゃないですか」
「……らしいです。お恥ずかしい話、私は自分の針子という仕事が大好きで今まで恋愛のれの字もありませんでした。他人に興味が無い。なので自分の心の機微にも鈍いのだと思います」

産まれてからあのお見合いの日まで。私は他者へ興味を持てない方で、きっと結婚なんて無理だと思っていた。
それが、何故か、彼のような人が出てきたから。形から夫婦を始めた。
今はまさか自分が胡蝶さんに嫉妬のような、何かを向けただなんて。
それを自分より先に彼女のほうが勘付いて気を回してくれた。全くいけない。
義勇さんは確実に私に影響を与えている。私も彼に、何か与えられているのだろうか。

「胡蝶、Aは来ているか」
「あら、冨岡さん。奥様のお迎えですか？」
「日が暮れる」
「え、ああ……すみません、胡蝶さん。つい長居してしまって」
「いえ、いいんですよ。Aさんなら大歓迎です、可愛いですしね」

お姉さんの方が美人です。と喉までせり上がってきた言葉は飲み下した。
お土産に、と胡蝶さんのもとに居る二つ結びの女の子がお菓子を持たせてくれたので有り難く頂く。キビキビした動きの子だなあ。胡蝶さんに頭を下げて2人で自宅へと戻る。
日が暮れると、夜になると、鬼が出る。一人で私が帰るのは危ないと懸念して迎えに来てくれたんだろうか。

「A、明後日京都に任務に行く。どのくらいかかるか分からないが、長引くかもしれない」
「京都、ですか。遠いですね」
「一緒に来るか」

その誘いの意味はさっぱり理解できなかった。いや、任務に行くんですよね。
私なんてお荷物じゃないですか、義勇さん。でも京都か、いいなあ。
西陣織帯や京友禅、京繍は一度現地で本物を見てみたかった。これは良い機会かもしれない。
いやでも、義勇さんは観光とか遊びに行くわけではないし。

「日中はAの好きなことをするといい。但し、夜は出歩くな」
「……なら、行きたい、です」
「分かった」

隠の人たちに暫くおやすみするって言わなくちゃなあ。
京都は何を着ていこう、お気に入りの着物にしようかな。帯も少しだけ華やかなやつにしよう。
夕飯の献立を考えながら京都への小旅行の事を考える。こんなに浮かれているのは、きっと見合い前以来だった。