夜にサヨナラ【冨岡義勇】 (ページ16)

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針鼠のような棘① ページ16

「そういえば義勇さんはおいくつなんですか」

チクチクチクチク、針子は一日中布と糸と向き合う。ここ鬼殺隊では縫製係と呼ばれる。
機械を使う部分は使うものの、鬼殺隊の隊服には特殊な布と糸が使われているらしく機械と相性の悪い部分があるらしい。
それ故にこうして「滅」の字を無心でチクチクと縫っている。

「えっ、菱田さん知らないんすか？！」
「ええ、まあ」
「え～っと……柱になって1年くらいだから…20かそこらか？」
「へえ、私と大差なかったんですね」

隠の人たちは私のことを「菱田」と旧姓で呼ぶ。
理由は単純、私が彼らの針子としての師匠であることにも起因する。
その頃の彼らは普通の人の格好で菱田屋に奉公している、という体で私が裁縫の何たるかを一から叩き込んだのだ。
恐らく、そのせいもあるのだろう。自分が冨岡義勇という男の嫁である自覚をイマイチ持てない。いやいや、あんだけ触れられておきながらいまさら…と思うわけだけど。

「そういえばご姉妹はお元気ですか、Aさん」
「ええ、姉も妹も息災ですよ。私が結婚したと知って私より喜んでました」
「お相手が水柱様ですものね」
「音柱様や炎柱様も人気ですが、水柱様はあの人を寄せ付けない雰囲気が素敵だって隠の間で言われているんですよ」
「へえ、そうなんですね」

いや、多分義勇さんのことだ。ただの口下手だと思う。私も人のこと言えないけど。
義勇さんは顔に出ない。いや本当に私も人のことを言えないけど、顔に出ないし、口下手だし、言葉が足りない。
ただ顔が綺麗な方なので勝手にこうやって女性陣は盛り上がる。