夜にサヨナラ【冨岡義勇】 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:65,075 hit

君に花を、貴方に恋を③ ページ11

……もしかしなくとも、私が思うより彼は自立した男性なのかもしれない。
さて、私はと言えばその間に鮭のおにぎりを握っておく。おにぎりだったら手軽に食べられる。中身が今日焼いたものだけど。
どのくらい食べるのかはよく分からなかったので彼の分を3つ、自分の分を2つ用意し終えた私は風呂の用意をした後に寝床の準備に入る。
今日は二組、いつもは一組だけど、義勇さんが居るから。

「A、」
「はい、……義勇さん、風邪ひきますよ。もう少し拭いてください」
「すぐ乾く」
「そうじゃない」

若干背伸びをして髪を拭いてやる。頭を若干下げる義勇さんは素直でちょっと可愛かった。
気にならない程度まで拭き終えた後に自分も風呂へと向かう。

「……あれ」

結婚して引っ越してきた時も思ったが広いお風呂だなと思う。
ふと洗い場を見ると薄紅色で桜を象った真新しい石鹸が増えている。…これは、もしかしなくとも。使っていいやつ。
ありがたくそれを泡立てれば桜の香りがした。体を洗って、髪を洗って少し湯船に。
元々長湯をする方でもないので体の疲れを解して風呂を上がれば体からほんのりと香る桜に頬が緩んだ。

「義勇さん、」
「ん」
「石鹸、凄く良い匂いです。気に入りました」
「そうか」

布団の上に座る彼が手招きをする。一体何かと思いながら自分の布団の上に座り彼のことを見つめる。……まあ、何を考えてるのかなんてさっぱり分からないのだけど。
私の膝に置かれた手に、遠慮がちに触れた義勇さんの手はゴツゴツとしていて男の人だと意識してしまった。

「Aと夫婦になれたことを、俺は喜ばしく思っている」
「はい」
「できるだけ、帰るようにする。君と一緒にいる時間を増やせるよう、努力しよう」
「分かりました。……あ、あの、義勇さん、」
「なんだ」
「えっと、手……」
「？手がどうした」
「……すみません、結構私、恥ずかしいです」

そう伝えたところでやっと手が離れて、どこかバツが悪そうに瞳を逸らされる。初めて触れた、男の人の、義勇さんの手。大きかった。
手元に残った人肌がどうしようもなく恥ずかしくなってしまう。いい歳なのに。
暫し2人で気まずい様な時間を過ごした後、義勇さんの方から「寝るか」と声が掛かったので私は一つ頷くのでいっぱいいっぱいだった。