リンゴ

10P F ページ10

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藤「……あの子は林檎」



ただ、目の前にあった林檎

リンゴ


君は



藤「…」



目が覚めて１週間が経った昼下がり
電気をつけないで日が沈むと、ともに暗くなる病室

ゆっくり、ゆっくり

でも変化に気付けないほどではない



ガラガラ

扉が開く音がしたから
振り返ると入ってきたのは北山だった



藤「…おかえり」

北「……」



おかえりとか、適切な挨拶ではないのだろうけど
俺らの関係に適した挨拶なんてないから

ないのに

使ってしまった、おかえりを
北山は嬉しそうに聞き流す



藤「全部、終わったの？」

北「…ん。全部」



北山、俺ね

分かったんだよ


絵本の通り

君が望む俺の役割



藤「触れたい」

北「ん」



手を伸ばせば、北山の手が優しく重なる



藤「遅かったね」

北「…藤ヶ谷のせいだよ」



そう北山は儚げに笑うから俺は
重なった手を強く握って少し北山を自分に寄せた

北山は反対の手を俺の頰に添える



北「でも…」

藤「…」



その手はゆっくり降りていき



北「…藤ヶ谷がいてよかった…」



俺の首に添えられた



北「……藤ヶ谷…」

藤「…ふふ」



壊れた君はいつまでも綺麗で
でも今の君は可愛らしく愛おしい

完全に迷子の子供。



藤「北山、愛してるよ」

北「うん」



伏せがちな目も

柔らかい髪も



全て、




藤「殺したくなるくらい」




愛してる




北「…嬉しい」




君に壊された俺は

ただ君の中に少しでもいたくて
無駄なことばかりやって

でも分かった


俺は君が欲しかった

でも君を知る必要はないんだ


君の周りは君が出来た過程であって

俺の好きにはそんなの必要なくて




藤「だから、殺さない」

北「…」




殺して欲しいという君が

過程には沢山いたけど、関係ない




藤「死にたがる君が好きだから」




死にたくない

という本能を越える理由を探して


殺したくなるほど愛される


君が望む、君が見つけた素敵なエンディング




藤「生きてよ」




俺が壊してあげる




藤「一緒に生きて欲しい」




俺は林檎


君のりんご


君だけの、リンゴ




北「……お前、おかしいよ」




そうゆう北山の目には
ちゃんと俺が映っていて

北山はゆっくりと俺に腕を回した




藤「北山のせいだよ」




そう俺が言うと北山は

強く俺を抱きしめた



やっと、ああ、君を知れた




藤「ずっと北山をみとくから」

北「ん」









end

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