“ありがとう”を 貴女に…【短編集】vol.3

・□□ ページ37

「小池さんっ」


「……安田くん」


「これっ、ありがとぉ。返すの遅くなってもぉて、ごめんな？」

左胸のポケットから出てきたお守り


「うん…」

あれだけ話したいって思ってたのに、いざ彼を目の前にすると、何を喋っていいのかわからない

こんなこと…初めて



「あの…さぁ。今日の放課後って、小池さん…」


「あっ。ヤスくん こんなとこにいたぁ〜」

安田くんの腕に、自分の腕を絡ませてくっつく、どこのクラスかもわからない女の子


「わっ…たし、先、もどって…ます」

訳のわからない敬語使って、言いたい事も言えなくて…


私、どうしちゃったんだろう





「はぁ〜あ〜っ」


「お前さぁ、毎日ここに入り浸るの、やめてくんない？」


「せやで？勉強にならへんやろっ」


「はっ？勉強なんてしてないじゃん。いっつもおかし食べてるか 寝てるか、エッ チな本…」


「あ〜っ、ハイハイ。わかった わかった」

文化祭が一大イベントの軽音部

それが終われば、練習も殆どなくなって、部室は、ヨシ兄と渋谷先輩が独占中


放課後、女の子に囲まれる安田くんのこと 見てられなくて、軽音部の部室に逃げ込む毎日



「A〜」


「はい？」


「お前、いつまで逃げてんの？」


「何が？」


「ヤスから。いつまで逃げてんのって聞いてんの」


「………それは…」


「なんやねん。ヤスの周り 女が囲んとって、近付かれへんのか？どうせ私なんて…とか、思ってるんとちゃうん？」


「おっ…思ってるよ。そもそも 先輩があんな事っ…」


「あんな事？」


「あの時、安田くんの名前なんて言わなければ…」


「アホか。遅かれ早かれ、あれがヤスやってバレとったわ」


「………」


「もぉ、すばる。あんま俺の妹 いじめないでよ」


「ヨシ兄…」


「あのさぁ、ひとつ聞きたいんだけど」


「うん」


「安田を取り巻く環境は、あの日から一変したじゃん？」


「……うん」


「安田は？安田自身は、何か変わったの？」


「安田…くん？」


「そぉ。お前 同じクラスなんだからわかんだろ？」



彼が引っ越してきた5月から、ずっと見てた

暇があったら本読んでるとこも

空 見上げて、微笑むとこも


「……変わってない」

そう。安田くんは、何にも変わってない


「なら、変わったのは お前だろ？」


「わ…たし？」


「そう。お前が勝手に安田から距離、置いてるだけだろ？」


「………」



渋谷先輩とヨシ兄の言ってる事に、返す言葉もない

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