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「泣いてへんって」
『じゃあこっち、見てください』
「嫌や！」
『ええぇ…』
私は更に足を早めて、彼と距離を取ろうとした。
もう涙はぽろぽろ零れ落ちはじめている。
彼も負けじと追いかけてくる。
「やめてや、付いてこんといて」
『いやだって僕たちおんなじ場所に戻ろうとしてるんですよ』
「…確かに」
『ちょっと待ってくださいって』
彼に右手を掴まれて、立ち止まるしかなくなってしまった。諦めがついて、涙でぐしょぐしょになってしまった顔で彼を見つめた。
『やっぱり、めっちゃ泣いてますやん』
「うん」
『どうしたんですか』
「…今度、ちゃんと話すから。今日は勘弁してほしい」
『…分かりました』
せめて、今日だけは。
ずっと待ちわびていた今日だけは。
振られた女と振った男、になりたくない。
先輩と後輩のままでいさせてほしい。
「じゃ、行こ」
歩きだそうとすると、待って、とまた右手を掴まれた。
『絶対、今度教えてくださいね。僕、無理なんで、好きな人が泣いてるとことか見るん』
「あぁうん分かった分かった言うって………は？今なんて？」
『…………今度、言います』
そう言うと、次は彼が足早に歩き始めた。
「待って待って、今なんて言うたん？」
『今度！！今度ちゃんと言います！！』
「今、聞きたいかもしれん」
『それはずるいですって、Aさんやって今度って』
「それはそれ、これはこれ！」
思わず彼の左腕に両手でしがみついてしまった。
『ちょっ…好きな人にそんなんされたら、無理ですって、もう』
「また！また言うた！」
『………あっ』
「なに？」
泳ぎまくっている彼の視線の先を見ると、そこには呆然と立ち尽くす中谷と中野がいた。
『ちゃうねん、これは』
「ちゃうって何が〜！？！？腕組んでますやん！！」
中谷は相変わらず声がでかい。
「おふたりってそういう関係だったんですか？」
中野は相変わらず冷静。
さすがにこうなってしまっては、彼に話の続きを聞くことはできない。
「…行こ、阪本」
『はい』
ちょっと、説明してくださいよ、と詰め寄る2人を振り切って、彼と駆け出した。
劇場に着いたらまた騒がれるだろうけど、その時はその時、また考えよう。
4月。
大好きな彼が、東京にやってきた。
私の春は、思っていたよりもすぐそばにあるのかもしれない。
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いと(プロフ) - オズワルダー・カイさん» コメントありがとうございます！すごく嬉しいです( ; ; )私も想像できすぎてニヤニヤしながら書きました！笑 (2023年4月15日 12時) (
レス) @page50 id: 5013af6899 (このIDを非表示/違反報告)
オズワルダー・カイ(プロフ) - とても面白かったです！nktnさんが口を滑らすのが想像できて笑 何度でも読み返します！ (2023年4月15日 8時) (レス) @page50 id: 6b28a2102b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いと | 作成日時：2023年3月25日 23時
