増田貴久の独白

32 ページ32

32



「よ、」


「…まっ…すー…。」



3日後に退院を控えた手越の元へ、この日初めて行った。



病室を訪ねると、手越は半座位で本を読んでいた。



顔色もだいぶ良くなった。


今にも細くて折れそうだった腕も、少しだけ肉付きが良くなった。


…相変わらず細いけど。



目に見て良くなっているその姿に、ほっと胸を撫で下ろす。




「体調どう？」


「ぼちぼち。」


「…そっか。」


「……。」




なんだろう、この照れ臭いような…気まずいような雰囲気は……




よく考えてみたら、スタジオで話した時以来だ。




あの時俺何言ったっけ…



1人で思い返し、気恥ずかしさでいっぱいになっていると、





手越が声をかけてきた。







「ねぇ…まっすー。」







意思の宿ったその瞳にもう迷いなんて無くて、







「ん？」







澄んだその声も、柔らかい表情も







「…ふふ…。」







俺たちの知っている手越そのもので、







「なんだよ…。」









ああ、









もう、大丈夫なんだね









・









・









「…ただいま。」









・









・









暖かな日の光が窓から差し込む。



まるで祝福されているような、そんな気分だった。



…
完

あとがき→←31

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す