教育実習生と生徒 (ページ14)

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彼視点ページ14

nagase side

最初の印象はなんだこいつ、だった。

後ろから恐る恐る声をかけてきたそいつは全く知らない人で。

「お前誰やねん。」

思わず、口調がきつくなった。

よくよく聞いたら、教育実習生らしく、俺を探していたらしい。

どうせ櫻井に探すように言われたのだろう。
言われたまま行動したそいつにちょっと腹が立った。

「俺、授業嫌いやねん。出んでも自分で勉強できるし。」

授業なんて出なくても学年1位なんて余裕だし、それなら聞く意味もない。時間の無駄なだけやし。

そんな俺の言葉を聞いてもそいつは引き下がらなかった。他の奴らなら、諦めるのに。

だから、どんな授業をするのか、ちょっと興味を持った。

教室に行くと紫耀が席にやって来た。

「あれ、廉珍しいやん。授業出るなんて」

「まあ、たまには。」

「俺らのクラスに教育実習生来たんやで！」

「知ってる。今日呼び止められて授業来いって言われた」

「そうやったん！可愛い先生やろ～でも、先生に言われたから来るなんて廉からしたらありえんことやな！先生気に入ったん？」

「いや、そういうわけちゃうけど」

そんな会話をしていたら、教育実習生が教室に来た。

言われた通り出てやったと言わんばかりに見つめていたら、目があった。すぐ、逸らされたけど。

はじめての授業は百人一首らしい。なんとも教育実習生っぽい。

紫耀が古典は苦手だと先生に訴えかけていた。

たしかに、古典は苦手なやつが多い。

俺にとったら、好きも嫌いもないし、点数は取れるからさして問題はないのだが、ただみんなの発表を聞くのもつまらないと思ったから、そいつに聞いてやった。

「先生の好きな和歌はなんですか」

急に声を発した俺にびっくりしたのだろう。
周りも静かになってそいつの言葉を待った。

少し考える姿を見せて、藤原実方の和歌が好きだと言った。
たしか、《かくとだに》ではじまるやつ。

その和歌が好きだと言ったそいつは、一瞬どこか儚く切なそうな顔をしたがそのまま説明を続けた。

それがあまりにも綺麗すぎて、柄にもなく、思わず見惚れてしまった。

現代語訳をさせている間に机間巡視をしていたそいつは、俺の元に来た。

『さすがだね。もうできたんだ。』

そう声をかけて来たそいつ、さっきの顔は何処へやら笑顔だった。

「まあこれぐらいは。Aちゃんってロマンチストなんやなあ？」