教育実習生と生徒 (ページ11)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:8,071 hit

. ページ11

そんな時にたまたま通りかかったのが当時同じクラスだった岸くん。

「どうした？なんかあった？」

静かに泣いていた私にそう声をかけてくれた。

なんとなく、岸くんには心を許してしまって私が先生を好きなことも、先生がとった行動もすべて打ち明けてしまった。

『さすがに引いたでしょ？先生を好きだなんて』

「んなことないから。好きになりたくて好きになるわけじゃないだろ。たまたまお前が好きになった人が先生だったわけで」

『岸くんは優しいね。』

「あいつが辞めるなんて誰1人として知らなかったみたいだな」

私に気を遣いながら言葉を繋いでくれる岸くん。

「多分だけど、あいつAのこと好きだったんだろうな。でも気持ち伝えてもどうしようもできない。だから逃げたんだよ」

ただ、逃げたという言葉に私は引っかかった。

『逃げたなんて、勝手なこと言わないで。絶対また私の前に現れてくれるもん』

私の前に現れてくれる、なんてただの私の願望。
おそらく、現れることがないのはわかっているけど、ただの強がりだ。

「もう諦めろ。あいつは、お前を守れないって思ったんだよ。」

『守ってほしいとも思ってなかったのに、なんで…私の前からきえたの、先生…っ』

岸くんは私が泣き止むまで、そばにいてくれた。
それがなんだか心地よく感じて、彼には随分と甘えてしまった。この出来事から、私は常に彼の近くにずっと身を置いていた。

高校を卒業してからもそれは変わらず、大学は岸くんと同じところを受けたし、大学の4年間もいつでもそばにいてくれた。

あの日以来先生は私の前に1度も現れていない。
どうしてあの付箋をつけたのか、未だにわからない。

私が先生になろうと思ったのは、いつか先生に再会できるのではないかという微かな希望があったからである。

もう今では、すっかり吹っ切れてしまったのだけど、私の青春はこの図書館に詰まっているのだ。

楽しいことも辛いことも、私の高校生活の全てがこの図書館なのには違いない。