萩月《∞》2 (ページ39)

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すばるさんが泣くのを我慢してるから、

『私、絶対にすばるさんの顔、見ないんで。気にせずに泣いて下さい。』

すばるさんは、困ったように笑って、

『ありがとう。気持ちだけもらっとくわ。優しいな、Aは…。』

遠慮されたから、どうしようと、すごく考えていたら。

『A、そんなに考え込まんで…。やったら、背中借りてもええ?』

『背中?』

『おん。』

よく分からないけど、すばるさんが泣く事が出来るならと、

『良いですよ。』

『A、ありがとう』

すばるさんは私を、後ろから抱きしめた。それで、意味が分かって。

これはいけないと、言おうとしたら、すばるさんが少し、震えてるのが分かったから、

側に居てあげたくなって、何も言えなかった。

落ち着かせてあげたくて私は、すばるさんが回した腕に、優しくトントンと触れていた。

『A、俺な…。』

落ち着いたのか、いつもより低い声で、すばるさんが話しだした。

『はい。』

『さっき、上の店で流れてたジャズの曲に、忘れられへん、思い出があんねん…。』

『あれは、俺がまだ売れてない。歌をやり始めた、駆け出しの頃やった…。』

歌を始めても、全く上手くいかず。でも、人前で歌いたかったから、紹介してもらったJAZZ BARで手伝いをしながら、時々歌わせてもらっていた。

マスターと奥さんがお店には居て。急に奥さんが、お店に出れない事が起こって、臨時でバイトに来た人が、すばるさんの思い出の人だった。

『そいつ、見た目は可愛らしいのに。サバサバして、ハッキリものを言ってて。そのギャップに、俺はすぐに落ちたんや。優しくて、気の遣える子でもあったから…。』

『毎日のように逢っては、仕事の合間に、音楽の色んな話をして。あと、俺の歌もよく聴いてもらって、感想教えてくれたり。お互いに大切に思ってて、口にはせんけど、恋人みたいなもんやった…』

それ以上話さなくなって、大丈夫かなと思ったら、私をぎゅっと抱きしめて、

『その子に、Aそっくりなんや。』

『えっ。』

『もう、この世には居らんのに…。』

私は言葉が出なかった。

『初めて、A 見た時は驚いた。生きてたんやって…。嬉しくて、ドキドキして。』

『でも、ヨコが現れて。違うって分かって、シンドかった。ヨコのお店にも行けんくなって、でも逢いたいなとは思ってて。知らんかったんや、旅館にAが来る事を…。やから、逢えた時は嬉しかった。』