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君亡き庭に 色は無し
淡く色付く 春椿
可憐に揺れるは グミの赤
ふわりふわりと舞い散る桜の
その薄紅色さえ目に触れぬ
君亡き庭に 音は無し
春待つ鳥の 囀りよ
そよぐ若葉の 揺れる声
軒に滴る雨音 ひとつ
我の
ーー 然れども
君在りし庭 彩りに溢れ
君在りし庭 ささやきに溢れ
我は確かに 息をする
君の隣で 息をする
或る春の日に見た 泡沫の夢
………
「ねぇ、いのちゃん
今日は高木さんが顔を見せに来るって」
梅雨が明け、真っ白な入道雲がもくもと
と浮かぶ夏の午後。
日除けの為に立て掛けた簾が心地好い陰を
作り出す。
たらいに張った冷たい水に両足を浸して
俺は縁側から奥を見やって声を掛けた。
夕方に高木さんは戻ってきて、
“俺、麦藁帽子を忘れていったね”
とだけ詫び、今度こそいのちゃんからそれ
を確かに受け取った。
雨の中お医者様を呼びに走った高木さんは、
途中圭人と山田君を伴ったひかる君に出会い
その先を任せたのだという。
やって来たのは圭人と山田君だけ。
ひかる君が高木さんに何を話したのか、
俺には分からなかったけれど妙にすっきり
とした表情で高木さんはいのちゃんを見つめ
ていた。
あれから時間を見つけては、珍しい舶来の
品をお土産にこの庭を訪ねてくる。
相変わらずに顔を出すだいちゃんとも、
今や軽口を交わす間柄だ。
二人の会話を聞きながらいのちゃんは、
クスクスと笑う。
「………ひかる君は今頃何してるのかな？」
使われる事のなかった英国行きの船券。
それじゃあ勿体無いからと自ら手にしたひか
る君は、二週間程前に港を発った。
“更なるこの世の不思議を知りたいのさ、
土産話を楽しみにしておいでね”
出立直前に顔を見せたひかる君は、
旅行鞄を引き摺りながら手を振った。
ひかる君が置いていったのは、
いのちゃんの詩が載った同人誌。
庭が一番綺麗に見える場所。
縁側の奥、かつて書斎だったその部屋に設え
た布団の中で横になったままのいのちゃんが
今日も確かに息をしている。
「……裕翔、来年は一緒に桜を見ようね」
「………うん、いのちゃん愛してるよ」
二人で並んで見る夢の
終わりなんてきっと無い。
ー 浪漫廻廊 ろまんかいろう ー
長く延びる廻廊の
曲がった先には何がある
まだ夜が暗かった
そんな時代のお話 終
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ぴよ(プロフ) - みたばさん» コメントありがとうございます(*´ー｀*)このお話は全員参加で色々な想いを描きたかったのでそう思って頂けてとても嬉しいです。私もみたばさんの“時雨る…” 等読ませて頂いていて素敵な世界観に引き込まれています。頑張って下さいね♪ (2017年6月29日 17時) (
レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みたば(プロフ) - 初めてコメントさせていてだきます。それぞれから見る世界の見え方や、それぞれの抱く思い、そしてどこまでも美しいいのおちゃんに心がやられっぱなしでした。素敵なお話有難う御座いました。お体もどうぞご自愛ください。 (2017年6月28日 11時) (レス) id: c12d4af081 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 皆さんと世界観を共有出来たのも嬉しかったです。ちょうど出産に重なり温かいお言葉にも感謝しています。幸い母子共に健康で健やかに過ごせています。またムリのない程度にお話も書けたらと思っています。これからも宜しくお願いします＊＊ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 初めまして、コメントありがとうございます( ´∀｀)読んで貰えるだけでも十分ありがたいのですが、やはり感想を頂けると励みになりますし書いて良かったなぁと思います♪私もあの写真からここまで長いお話になるとは想像していなかったのですが無事完結出来て満足です。 (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» つもりでした。夏の暑さはまだ先ですが蝉の声響くいのちゃんの庭を想像して書いてみました。あんな風に二人は皆に助けられ穏やかな時を過ごしているのだと思います。秋はどんな日々が待っているのだろうと想像も膨らみますね☆ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
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