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………真っ白、真っ白だ。

頭の中は真っ白で色を無くした世界に
いるのに、

両の手ばかりがこんなに赤いのは
何故だろう。


「………ぅと、ゆうと!」


ぎゅっと目を閉じ、いのちゃんにしがみつい
たまま瞼に浮かぶ赤と白とに囚われていた。
遠くで俺の名を呼ぶ声する。
次第に大きくなるその声に、何とか応えなく
てはともがくように息をした。


「裕翔、しっかりして!」


「……………だ、いちゃん?」


俺の両肩を揺すりながらだいちゃんは、
ピシャリと一度頬をぶった。
冴えた痛みが俺を現実へと引き戻す。


「大丈夫、いのちゃんまだちゃんと
息をしてるから。

布団を敷いて横にしてあげよう、」


だいちゃんは冷静で、
俺はやっぱり子供だった。

言われるがまま喀血に染まった着物を替え、
隣室に設えた布団にゆっくりといのちゃん
を横たえた。
沈み込んだ薄い身体はそれでも確かに胸を
上下させ、命を刻んでいるのが分かる。


「………お医者様は?」



いのちゃんの額を撫でながらだいちゃん
が言った。


「……………高木さんが、」


“俺、医者を呼んでくるから
伊野尾君を頼んだよ!”


そう言い残し真っ先に雨の中に飛び出して
いったのは高木さんだった。
やっぱり俺は、何にも出来なかった。
一番近くに居た筈なのに、覚悟もしていた筈
なのに、何とも無力だった。



「………裕翔がそんな顔してちゃ駄目だ。

いのちゃんと一生(・・)を共に
するって、そう言ったろ?

俺はその言葉を信じたんだよ、」


だいちゃんは俺を真っ直ぐに見据えた。
いのちゃんの元へと再び導いてくれたあの
日と同じ深い眼差しで、俺の決意を確かめて
いた。



「……………うん、嘘じゃない…

俺の全て、心も身体も全部全部捧げる
から……明日も明後日もずっとずっと隣で
笑っていて欲しいって思った、」



ー 俺はもう、いのちゃんの居ない世界で
息をする事なんて出来ない ー



いつの間にか陽は沈み暗闇がやって来る。
ちらちらと揺れるランプの灯りが俺とだい
ちゃん、そして瞳を閉じたままのいのちゃん
を交互に照らし出す。
小さな娥がパタパタと羽音をたてる他には
何にも聞こえない。

雨が降っているのに
とても静かな夜だった。


高木さんはまだ戻らない。



「……………ごめんください。

夜分遅くに失礼します。」



それは、
聞き覚えのある
優しげな声だった。

*→←*



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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - みたばさん» コメントありがとうございます(*´ー`*)このお話は全員参加で色々な想いを描きたかったのでそう思って頂けてとても嬉しいです。私もみたばさんの“時雨る…” 等読ませて頂いていて素敵な世界観に引き込まれています。頑張って下さいね♪ (2017年6月29日 17時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みたば(プロフ) - 初めてコメントさせていてだきます。それぞれから見る世界の見え方や、それぞれの抱く思い、そしてどこまでも美しいいのおちゃんに心がやられっぱなしでした。素敵なお話有難う御座いました。お体もどうぞご自愛ください。 (2017年6月28日 11時) (レス) id: c12d4af081 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 皆さんと世界観を共有出来たのも嬉しかったです。ちょうど出産に重なり温かいお言葉にも感謝しています。幸い母子共に健康で健やかに過ごせています。またムリのない程度にお話も書けたらと思っています。これからも宜しくお願いします** (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 初めまして、コメントありがとうございます( ´∀`)読んで貰えるだけでも十分ありがたいのですが、やはり感想を頂けると励みになりますし書いて良かったなぁと思います♪私もあの写真からここまで長いお話になるとは想像していなかったのですが無事完結出来て満足です。 (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» つもりでした。夏の暑さはまだ先ですが蝉の声響くいのちゃんの庭を想像して書いてみました。あんな風に二人は皆に助けられ穏やかな時を過ごしているのだと思います。秋はどんな日々が待っているのだろうと想像も膨らみますね☆ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2017年3月7日 11時

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