＊ ページ34
異国を感じる港町、妖しくも輝く夜の色街、
賑わい尽きない駅前通り……
何かを求めて、失って、それでも
人々は生きている。
様々に点る灯りが頭上を通り過ぎた
けれど、
気付けばたったひとり
板塀に囲まれたいつもの住宅街を歩いている。
半日ちょっと前に通った筈なのに
長い長い旅路を終えた巡礼者の気分だった。
身体は重く、思った様に動いてくれない。
息苦しさにネクタイを緩めた俺は、
遂には立ち止まりぼんやりと空を見上げた。
昨日が満月だとしたら、
今夜の月は少しずつ欠け始めているのだろう。
それでも十分に明るい月光が俺を煌々と
照らしているのだった。
“帰り道“も“帰る場所“もたったひとつ
しか無いのに、
それは果てしなく遠い道のりに思えた。
……
……
「ゆうと、」
その時、俺を呼ぶ声がした。
蕩ける様に甘く、優しく、
胸の中に染み入る温かな声。
帰るべき道の先で待つふんわりとした笑顔。
「………い、のちゃん？」
「迎えに来たよ、ゆうと」
月の光に照らされた真っ白な肌は、
益々透明に、美しく闇に浮く。
余りに綺麗で、神々しくて、それが少しだ
け不安で俺はいのちゃんに駆け寄るとぎゅっ
とその身体を抱いた。
「………いのちゃん、無理しないで
夜風は身体に良くないよ、」
冷えてしまった頬を撫で、
ふわふわとした髪に顔を埋めた。
いのちゃんは、
俺を迎えに来てくれた。
「……………ゆうと、お帰りなさい。
よく頑張ったねぇ、“ありがとう”」
“ありがとう”
いのちゃんはそう言って俺の唇に触れた。
啄む様な優しい口付けに、
ポロポロ涙が溢れてきた。
俺、少しは頑張れたかなぁ。
いのちゃんの為に何か出来たのかなぁ。
「………泣かないで、ゆうと。
ほら、一緒に帰ろう？」
溢れた涙をペロリと嘗めとり、
“やっぱりしょっぱいね”と微笑んだいの
ちゃんはそっと右手を差し出した。
俺はその手に自らの左手を重ね、
指と指とを絡ませる。
決して離れない様に絡ませる。
「あんまり泣いてると
お月様に笑われてしまうよ、」
子供みたいに手を取り合い、
くすくす肩を寄せながら二人で笑った。
「………ゆうと、
帰ったら何してくれるの？」
いのちゃんが甘く囁く。
ゆっくりゆっくり俺達は歩く。
ゆっくりゆっくり俺達は帰る。
ゆっくりゆっくり“今”を生きる。
続
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ぴよ(プロフ) - みたばさん» コメントありがとうございます(*´ー｀*)このお話は全員参加で色々な想いを描きたかったのでそう思って頂けてとても嬉しいです。私もみたばさんの“時雨る…” 等読ませて頂いていて素敵な世界観に引き込まれています。頑張って下さいね♪ (2017年6月29日 17時) (
レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みたば(プロフ) - 初めてコメントさせていてだきます。それぞれから見る世界の見え方や、それぞれの抱く思い、そしてどこまでも美しいいのおちゃんに心がやられっぱなしでした。素敵なお話有難う御座いました。お体もどうぞご自愛ください。 (2017年6月28日 11時) (レス) id: c12d4af081 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 皆さんと世界観を共有出来たのも嬉しかったです。ちょうど出産に重なり温かいお言葉にも感謝しています。幸い母子共に健康で健やかに過ごせています。またムリのない程度にお話も書けたらと思っています。これからも宜しくお願いします＊＊ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 初めまして、コメントありがとうございます( ´∀｀)読んで貰えるだけでも十分ありがたいのですが、やはり感想を頂けると励みになりますし書いて良かったなぁと思います♪私もあの写真からここまで長いお話になるとは想像していなかったのですが無事完結出来て満足です。 (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» つもりでした。夏の暑さはまだ先ですが蝉の声響くいのちゃんの庭を想像して書いてみました。あんな風に二人は皆に助けられ穏やかな時を過ごしているのだと思います。秋はどんな日々が待っているのだろうと想像も膨らみますね☆ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
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