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「………お願いします、

どうかいのちゃんを助けて下さい」

深く深く頭を下げた。
膝をつき床に額を押し付けた。
何も持たない俺が今出来ること。
彼らの前では取り繕った言い分や説明は
意味の無いものだと悟っていた。


それでも、
いのちゃんを救いたいとそれだけは
嘘偽り無い俺の想いの全てだった。



「……裕翔からおんなじ匂いがしたんだよ。

鉄の匂いさ、どれだけ拭っても
消えやしない。
身体に染み付いたそれは、じきに
俺を動けなくなるする、

そう思うと気が狂いそうだった。」


沈黙を破り、山田君が口を開いた。
昔話でもする様な語り口でいつかの自分を
回顧する。


「………まぁ、それは最初だけ。
じきに諦めばかりが上手くなって、
何にも怖くなくなっちまう。

“一人“で生きている分には
そうやって終わって(・・・・)
も良かったんだ、」


山田君は、さっきから考え込んだままの圭人
の肩に促すように手を掛けた。
圭人はもう一度山田君を見上げると、
小さく頷き初めて椅子から立ち上がった。


「………裕翔の望みは分かったよ。
でも、俺はご覧の通りしがないただ
の街医者なんだ。

噂は、噂。
いくら都合の良い尾ひれが付いて回っ
ていても、
何でも治せるって訳じゃない。


それが出来たら、人が生きる意味が
無くなってしまうよ。」


膝まずいたままで、
俺は圭人の言葉をじっと聞いていた。


「………それに確かめなきゃならない
事もある。
答えが出せるのは、それから。

必ずこちらから訪ねるから、
今日はもう帰った方が良い。

“大切なひと“が裕翔の帰りを
待ってる筈だよ…… 」


“行ってらっしゃい”と手を振るいのちゃん
の姿が見えた。

そうだ、帰らなくちゃ。

……


帰り際、差し出された真っ白なカルテにいの
ちゃんの名と住所を記した。
どうしても本人宛に確かめなければならない
事があると言い、俺には頷くより他に出来る
事も無かった。


山田君に送られてすっかり暗くなった
夜の色街を歩く。
心なしか歩みの速度を抑えてくれた山田君
の背を追うだけ、
来た時と同じどこをどう進んでいるのか
分からないまま。


気付けば路面電車に乗せられて、
見知った大通りにひとり降り立っていた。


ポケットに手を差し入れてみたけれど、
名刺は二枚とも消えていた。

*→←*



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作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - みたばさん» コメントありがとうございます(*´ー`*)このお話は全員参加で色々な想いを描きたかったのでそう思って頂けてとても嬉しいです。私もみたばさんの“時雨る…” 等読ませて頂いていて素敵な世界観に引き込まれています。頑張って下さいね♪ (2017年6月29日 17時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みたば(プロフ) - 初めてコメントさせていてだきます。それぞれから見る世界の見え方や、それぞれの抱く思い、そしてどこまでも美しいいのおちゃんに心がやられっぱなしでした。素敵なお話有難う御座いました。お体もどうぞご自愛ください。 (2017年6月28日 11時) (レス) id: c12d4af081 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 皆さんと世界観を共有出来たのも嬉しかったです。ちょうど出産に重なり温かいお言葉にも感謝しています。幸い母子共に健康で健やかに過ごせています。またムリのない程度にお話も書けたらと思っています。これからも宜しくお願いします** (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 初めまして、コメントありがとうございます( ´∀`)読んで貰えるだけでも十分ありがたいのですが、やはり感想を頂けると励みになりますし書いて良かったなぁと思います♪私もあの写真からここまで長いお話になるとは想像していなかったのですが無事完結出来て満足です。 (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» つもりでした。夏の暑さはまだ先ですが蝉の声響くいのちゃんの庭を想像して書いてみました。あんな風に二人は皆に助けられ穏やかな時を過ごしているのだと思います。秋はどんな日々が待っているのだろうと想像も膨らみますね☆ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2017年3月7日 11時

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