＊ ページ24
「それじゃあ、
行ってきます。」
翌日、久々の洋装に腕を通した俺は
妙に緊張していた。
此のところ和装を着流してばかりいたから
シャツのボタンを留めるのにも随分と手間取
ってしまう。
「スーツ姿の裕翔、格好良いね。
久しぶりだ。」
少し背伸びしてネクタイを締めてくれた
いのちゃんは、そう言って嬉しそうに目を
細めた。
港へは路面電車で繋がっている。
乗車場を求めて大通りまでの道を進む。
昨夜ひかる君に立ち止まったあの三叉路も
今日はすんなりと通り過ぎる事が出来た。
全ては、満月が見せた幻想だったのか
もしれないけれど
手にした名刺は今、
確かに俺を動かしている。
ガタガタと揺れる路面電車、
流れる車窓を眺めながら手を振る
いのちゃんの笑顔ばかりを思うのだった。
途中、賑わう百貨店前では着飾った御婦人
達が賑やかに、昼でも薄暗い裏路地近くで
は背を丸めた年配の男性がのろのろと
車内を後にしていった。
………
………
吹き込む風が潮気を帯び、
低く旋回する鴎が目の前を通り過ぎる。
あちこちで汽笛が鳴り、
人やモノが忙しく往き来するそこ。
港の煉瓦街に降り立った俺は、
そんな慣れない景色に弱冠気圧されながら
も目的の住所を求めて歩き出していた。
商店街の賑わいとは少し違う。
異国と本国の人々が当然の様に混在する
そこは、俺の知らない香りに満ちていた。
港に添って建物がびっちりと並ぶ一角。
英字交じりの看板があちらこちらに掲げられ
たその中に俺は求めていた社名を見付けた。
手にした名刺と見比べながら、
やたらと細長い赤煉瓦の壁を見上げる。
「………お邪魔します、」
磨りガラスのドアをこつこつとノックする。
我ながら間抜けな声しか出なかった。
ここへ来て何をしようとしているのか
今になっても良く分からないままだ。
「……………いらっしゃい、」
やや間があって、
ゆっくりとドアが開いた。
「お約束かな、
生憎社長は外出中なんだけど。」
思いの外低いところから声がした。
するすると目線を落としてみれば、
洒落たスーツを着こなした“造りモノ“みたい
に綺麗な男がこちらを見上げている。
真っ白な肌には一点の曇りも無く、
目も鼻も口も完璧な出来の人形の様だと
思った。
「悪いけど俺は、店番みたいなもの
だから仕事の話は分からないんだ。
出直して貰えると助かるんだけど」
彼は、悪びれも無くそう言って笑う。
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ぴよ(プロフ) - みたばさん» コメントありがとうございます(*´ー｀*)このお話は全員参加で色々な想いを描きたかったのでそう思って頂けてとても嬉しいです。私もみたばさんの“時雨る…” 等読ませて頂いていて素敵な世界観に引き込まれています。頑張って下さいね♪ (2017年6月29日 17時) (
レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みたば(プロフ) - 初めてコメントさせていてだきます。それぞれから見る世界の見え方や、それぞれの抱く思い、そしてどこまでも美しいいのおちゃんに心がやられっぱなしでした。素敵なお話有難う御座いました。お体もどうぞご自愛ください。 (2017年6月28日 11時) (レス) id: c12d4af081 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 皆さんと世界観を共有出来たのも嬉しかったです。ちょうど出産に重なり温かいお言葉にも感謝しています。幸い母子共に健康で健やかに過ごせています。またムリのない程度にお話も書けたらと思っています。これからも宜しくお願いします＊＊ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 初めまして、コメントありがとうございます( ´∀｀)読んで貰えるだけでも十分ありがたいのですが、やはり感想を頂けると励みになりますし書いて良かったなぁと思います♪私もあの写真からここまで長いお話になるとは想像していなかったのですが無事完結出来て満足です。 (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» つもりでした。夏の暑さはまだ先ですが蝉の声響くいのちゃんの庭を想像して書いてみました。あんな風に二人は皆に助けられ穏やかな時を過ごしているのだと思います。秋はどんな日々が待っているのだろうと想像も膨らみますね☆ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
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