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その晩、俺は夢を見た。
既に散り去った筈の桜が見事に咲き誇
り、いのちゃんの庭は春の香りで溢れて
いた。
それはそれは美しい光景。
いつか見た黄緑色の小鳥が枝から枝へと
ひょこひょこ飛び回る度に、
花弁がひらひらと舞い始め
舞って、舞って
舞って、舞って、舞って…………
辺り一面、視界は薄紅色で一杯になった。
傍らでそれを見上げている筈のいのちゃんの
姿もあっという間に見えなくなって、
焦った俺は、繋いだ右手に力を込める。
もう、離れたくは無いからと強く強く
力を込める。
………でも、空を切る様にその感触は徐々に
透明になり、気付けば俺の右手には何にも
残って居なかった。
いのちゃん、どこに行ったの？
「………ぅと、裕翔？痛いよ、」
遠くでいのちゃんの声が聞こえ、俺は目を
覚ました。
そこはいのちゃんの寝室で、いつの間にか
俺はきちんと布団を被って眠っていた。
僅かに差し込む光が朝の訪れを告げている。
繋いだままの右手に随分と力を込めていたら
しく、いのちゃんは困った様に笑っている。
「………ぁ、ごめんなさい。痛かったね。 」
そこに、ちゃんといのちゃんが居る事に
安心した。
「うなされていたよ、怖い夢を見たの？」
“怖い夢“ だったろうか。
綺麗で良い香りがして、まるで天国みたいに
美しい景色だったけれど、いのちゃんが消え
てしまうのは怖かった。
「………うん、怖かった。
いのちゃんが消えちゃう夢だったから」
いのちゃんは宥める様に頭を撫でてくれる。
俺が俺の在り方を知ったあの時みたいに、
どこまでも優しいいのちゃんの掌。
でも、今度は俺だって与えられてばかりで
は居られないのだと、いのちゃんの背に両手
を回した。
背の高い俺にすっぽりと重なる身体を、
抱き締めて耳元に唇を寄せる。
「………でも、大丈夫。
俺はもういのちゃんを離さない。
どこにも行かないし、どこにも行かせ
ないからね。」
「………うん、どこにも……ね、」
もう、父の元には戻らないと決めた。
大学にも行かない、後継者である事も
全てを棄てて生きていくのだ。
俺は、ただ一人の
“中島 裕翔”になる。
………
………
「それはきっと、だいちゃんだよ。」
向かい合って朝食を摂りながら、俺はかの
恩人について尋ねた。
俺の背を正してくれた小さくも大きな力を
持った彼は何者なのか知りたかった。
僅かな特徴を告げるといのちゃんは、
“だいちゃん”と其の名を口にした。
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ぴよ(プロフ) - みたばさん» コメントありがとうございます(*´ー｀*)このお話は全員参加で色々な想いを描きたかったのでそう思って頂けてとても嬉しいです。私もみたばさんの“時雨る…” 等読ませて頂いていて素敵な世界観に引き込まれています。頑張って下さいね♪ (2017年6月29日 17時) (
レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みたば(プロフ) - 初めてコメントさせていてだきます。それぞれから見る世界の見え方や、それぞれの抱く思い、そしてどこまでも美しいいのおちゃんに心がやられっぱなしでした。素敵なお話有難う御座いました。お体もどうぞご自愛ください。 (2017年6月28日 11時) (レス) id: c12d4af081 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 皆さんと世界観を共有出来たのも嬉しかったです。ちょうど出産に重なり温かいお言葉にも感謝しています。幸い母子共に健康で健やかに過ごせています。またムリのない程度にお話も書けたらと思っています。これからも宜しくお願いします＊＊ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - upmamaさん» 初めまして、コメントありがとうございます( ´∀｀)読んで貰えるだけでも十分ありがたいのですが、やはり感想を頂けると励みになりますし書いて良かったなぁと思います♪私もあの写真からここまで長いお話になるとは想像していなかったのですが無事完結出来て満足です。 (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» つもりでした。夏の暑さはまだ先ですが蝉の声響くいのちゃんの庭を想像して書いてみました。あんな風に二人は皆に助けられ穏やかな時を過ごしているのだと思います。秋はどんな日々が待っているのだろうと想像も膨らみますね☆ (2017年6月28日 10時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
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