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「いのちゃん、少し起き上がれる?
だいちゃんからスイカを貰ったんだ。」

寝たきりでは、背中が痛むに違いない。
殊、薄くなった今では床擦れも心配だ。
背に差し入れた両手でゆっくりと身体を
持ち上げる。



「………っぁ、ちょっと待って、」


力が入らないのかいのちゃんは、俺の背にし
がみついたまま苦しそうな声を上げた。


………あっ、そうだ。

起こしかけた身体を再び横たえ、きちんと
正座した自らの膝上に俺はそっといのちゃん
の頭を乗せた。
これなら僅かに背が浮くし、



「……いのちゃんの顔がよく見えるね、」



見下ろすそこにはとろんとした眼差しと
着物越しに感じる柔らかな温もり。
さわさわと膝頭を撫でながらいのちゃんも
またゆったりと微笑む。




「………ゆうとの膝枕、気持ち良い」




お互いの熱がゆっくりと溶け合って、ひとつ
になる心地好さ。
してもらってばかりの俺から初めての膝枕。
うっとりと呟くいのちゃんに安心して、
何度も何度も髪を撫でた。



「ゆうと、スイカ食べたい……」


見上げるいのちゃんがねだる。
そもそも水分補給にと切り分けたスイカを運
んできたのが始まりだった。


「………ねぇ、食べさせて」


僅かに口を開けたいのちゃんが、着物の袖を
引いてくる。
赤い三角山のてっぺん、一番甘い角を含み溢
れだす果汁ごといのちゃんに口移しをした。
舌先でそれを受け取ったいのちゃんは、
シャクシャクと音をたて美味しそうに喉を
鳴らす。



「あぁ、甘い。ゆうとの味がする。」



甘いのはいのちゃんの方だよ。
初めて味わった唇は、どんな蜜よりも甘く
蕩ける様だったもの。

俺は、再びいのちゃんに口付ける。
少しベタベタしたスイカの果汁、瑞々しい
甘さ、真っ赤な果実、喧しさを増す蝉の声

……


嗚呼、

真夏の味がする。


……



「………俺は蝉の声が好きだよ、

最後まで鳴き通し空っぽになるまで
息をする、干からびた亡骸は誇らしく
で美しいもの、」


いのちゃんは伸ばした指先で俺の頬を撫でて
くれる。


「大丈夫、俺はゆうとで満たされてるから
まだまだ空っぽにはならないよ、


………ねぇ、もっと食べさせて 」


チラチラ見える真っ赤な舌がスイカを
おくれと催促する。
再び口に含みながら軒先に吊った風鈴の
音を聞いた。



“チリンッ”




夏が終われば、
俺達の出会った“秋“が来る。 終

*ぴよ*→←13.日々徒然(ytin)



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ぴよ(プロフ) - ありがとうございます( ´∀`)少しずつ書いたお話たちが一杯になりました!短いので設定もある程度自由に楽しく書いています。気になるお話があれば嬉しいなぁ思います♪私も読んで頂けて幸せです* (2017年10月15日 18時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
にゃーご - こんにちは、ぴよさん。今まで読みたい〜って思っていた場所のお話が読めて幸せです。公開ありがとうございます。 (2017年10月15日 16時) (レス) id: 291fc33caa (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - みるみるみるきーさん» グランマニエとか 笑 私たちにはやっぱり有閑倶楽部なのでしょうかね。学園ものは王道ですが間違いないわくわく感が味わえますね( ´∀`)楽しい♪ (2017年9月22日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - ナイスですな、有閑倶楽部風味♪私もわかりましてよ。まあ、今の子なら桜蘭高校ホスト部のが浮かぶのかしら…でも、やっぱ有閑倶楽部かぁーー!みろくとせいしろうとかとか。 (2017年9月22日 13時) (レス) id: 40e0ecae06 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - ありがとうございます( ´∀`)まさにリクエストは有閑倶楽部風でした 笑 さすがヨウコさん!私そんなに詳しくはなくてちょっと不安だったんですがオッケ貰えて良かったです☆生徒会はやはり鉄板ですね。 (2017年9月15日 17時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年11月30日 0時

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