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とても静かだ。

手入れが行き届いた小さな庭には、
俺といのちゃんの二人だけ。
今年は、暖冬らしいと誰かが言ってたっけ。
なるほどちっとも寒くない。

いのちゃんの太腿やら掌の熱が俺を優しく包
み込み、心の底から満たされていた。


そうか、
俺は俺で在ることを諦めなくても良いのか。


いのちゃんの元へ導いてくれたあの橙色の小
花は、すっかり姿を消しているのに、何故だ
か甘い香りがそこらじゅうに広がっている。


「グミの花が咲いてるんだよ。

実を付けるのは春なのに、花は冬に
咲くなんて変わってるよね。」


ふと目をやれば金木犀の咲いていたちょうど
隣に吊り鐘型の白い花が咲いている。
その側では、黄緑がかった綺麗な小鳥が小首
を傾げてうろうろしていた。


「ほら、見てご覧、
ああやって赤い実を探しに来るんだよ。

実も付けず、甘い香りで誘惑ばかりす
るから。」


頭上から降ってくるとろとろと甘いいのちゃ
んの声。
詞葉に交じり漏れ出る吐息は、間違いなく金
木犀よりもグミの花よりも甘い。



………甘いのだろうか、?



「……いのちゃんのここは、どんな味が
するの?」



俺は、桃色の唇に指先を伸ばし、好奇心一杯
の子供が母親に疑問を投げ掛ける様に真っ直
ぐな言葉でそう尋ねた。




「……味見してみる?」



「……………うん、」



こんな季節になっても被せたままの麦わら帽
子のその影がすうっと近付いて、俺といのち
ゃんをすっぽりと覆ってしまう。
いつでも眠たげに見えるやや垂れた瞳の奥が
妖しく瞬いて俺は、目を閉じるのも忘れてし
まった。








ほらぁ、やっぱり甘いじゃないか。




触れ合った瞬間に正解を得た歓びと満足感
とが沸き上がり、誇らしげな気持ちになる。
正解のご褒美が欲しくなり、一度離れたそこ
にもう一度、今度は舌を絡ませた。



「……んぁ、ゆう、と…ぉ…」



「…甘くて……とっても美味しいね、」




小鳥が飛び去る羽音が聞こえる。
今度こそ本当に二人きりだ。



彼は、駆け出しの詩人で
俺は、大学の3回生だった。


あの暖かで穏やかな21歳の冬、
俺は、確かに恋をしていた。


この奇跡みたいな時間が永遠に続けばと、
澄み切った青空に捧げた祈りが、
果たして聞き届けられたのか


この時の俺には判らなかったけれど。



閑話→←*



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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - ひびた。さん» ひびた。さんありがとうごさいます!詩って難しいですね、小学生以来書いた気がします。だいちゃんが良いひとで、私も書きながら胸が一杯になりました(>_<)ytin再会はだいちゃんの優しさがもたらした奇跡かもしれませんね。続も是非お付き合い下さい♪ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けいままさん» ありがとうごさいます。けいままさんに詩を読みたいとのコメ頂いて私覚悟を決めました 笑 お届け出来て一安心です** 高木君を見送って、ひとり見上げた秋の空 。いのちゃんが書いた最初の作品という事で☆気に入って頂けて嬉しいです(*´ー`*) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» 今日は。素敵なコメありがとうごさいます。私もにゃーごさんと全く同感でたった一つでも拠り所があれば結構頑張れてしまうものだなと思っています。お話中では皆の気持ちに寄り添って見上げた空の色まで表現出来たら嬉しいです。次章も是非読みにきて下さい☆ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» ありがとうごさいます。お話があちこちに繋がってどんな世界が広がるのか。私も書きながら探っていきたいと思います。次章、今暫くお待ち下さい( ´∀`) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - coさん» コメありがとうごさ います( ^∀^)色んなありいのを考えたのですが、だいちゃんはやっぱりだいちゃんでした。いのちゃんの気持ちを分かっていながら黙って側にはいられない。切ないけれどそれが答えなんですね。続編も宜しくお願いします* (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年10月23日 13時

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