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「読みたいなら貸してあげるよ?」

頭上から降る声にビクッと身体が震えた。
お盆に湯呑みをふたつ並べたいのちゃんが
にっこり微笑んでこちらを見下ろしている。


「………うん、でも俺こういう本読んだ事
あまり無くて。

課題で読むのは経済や経営、参考書
の類いが多いから。」


言い訳じみた返答は、いのちゃんの住む世界
を理解出来なかったらという漠然とした不安
からだった。


「へぇ、そっちの方が俺には難しいな。
学生時代もろくに授業を受けた記憶が
無いもの。

隠れて本ばかり読んでいた 笑」


いのちゃんは、俺の手からするりと本を取り
上げると“無理しなくて良いよ”と優しく頭を
撫でてくれた。



「いのちゃんは、何故詩を書いてるの?」



温かな掌はいつでも俺を素直にさせる。
飲み込んだ筈の疑問さえすんなりと吐き出せ
てしまうのだ。

火鉢を囲み、受け取った湯呑みを口にする。
相変わらず火傷しそうに熱いこれが、今や何
よりも俺を潤してくれるのだから不思議だ。


「詩を書くのは、満たされない想いを
浄化させる為だよ。

胸にしまいきれなくなった色んな想い
を原稿用紙に吐き出してしまう。」


パチッ、パチッ
薄暗い室内、いのちゃんの横顔だけが白く淡
く浮かび上がる


「見ての通り祖父が遺してくれたこの家
と蓄えがあれば俺一人で生きていくの
に困りはしない。

詩人何て名ばかりの道楽者だよ。」



「…………満たされない想い、」


その正体を掴みかねているのは、俺も一緒
な気がした。
胸の中には確かに何か渦巻いているのに、俺
は吐き出す術を持っていない。


「そう。詩を書こうと思ったのは、
旧制中学最後の年。

………あれは、夏の終わりだった。」



いのちゃんは懐かしそうに天井を仰ぎ、目を
細めて綺麗に笑った。
あまりに綺麗で胸がまた少し疼いてしまう。



「………夏の終わりに何かあったんだね、」



俺の知らない“何か”が
いのちゃんを詩人にした。


口にしてしまえば、今度は胸がぎゅうっと締
め付けられる思いがする。
取り残されたと感じるのはあまりに自分勝手
だと、己の幼さが虚しくもあった。




「 ………ねぇ、ゆうと見てごらん?」



泣きそうになるのを堪えようと、
膝上で握り締めた掌をじっと見つめていた。
カサッと何かを取り上げる音がして、目の前
に晒されたのは真っ白な原稿用紙。

*→←第五話(ytin)



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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - ひびた。さん» ひびた。さんありがとうごさいます!詩って難しいですね、小学生以来書いた気がします。だいちゃんが良いひとで、私も書きながら胸が一杯になりました(>_<)ytin再会はだいちゃんの優しさがもたらした奇跡かもしれませんね。続も是非お付き合い下さい♪ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けいままさん» ありがとうごさいます。けいままさんに詩を読みたいとのコメ頂いて私覚悟を決めました 笑 お届け出来て一安心です** 高木君を見送って、ひとり見上げた秋の空 。いのちゃんが書いた最初の作品という事で☆気に入って頂けて嬉しいです(*´ー`*) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» 今日は。素敵なコメありがとうごさいます。私もにゃーごさんと全く同感でたった一つでも拠り所があれば結構頑張れてしまうものだなと思っています。お話中では皆の気持ちに寄り添って見上げた空の色まで表現出来たら嬉しいです。次章も是非読みにきて下さい☆ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» ありがとうごさいます。お話があちこちに繋がってどんな世界が広がるのか。私も書きながら探っていきたいと思います。次章、今暫くお待ち下さい( ´∀`) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - coさん» コメありがとうごさ います( ^∀^)色んなありいのを考えたのですが、だいちゃんはやっぱりだいちゃんでした。いのちゃんの気持ちを分かっていながら黙って側にはいられない。切ないけれどそれが答えなんですね。続編も宜しくお願いします* (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年10月23日 13時

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