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第五話(ytin) ページ32

今年は、十数年ぶりの暖冬だと皆が
すっかり油断していた頃。
年が明けてから寒さは日に日に深く
厳しさを増していった。
透明な冷たさがいのちゃんの庭を張りつめた
様な静寂で満たしていく。


そんな中でも二人並んで過ごす時間が、俺に
とって何よりも温かくかけがえの無いものだ。


「流石に寒くなってきたね………」


肩掛けのショールは俺からの贈り物。
ハイカラなご婦人がこれ見よがしに着こなす
上等品もいのちゃんには防寒具でしか無い。


その潔さが美しく、
無意識さが妙に艶かしかった。



「 ねぇ、ゆうと 」


いのちゃんが俺を呼ぶ声が好き。
時が止まったみたいに動けなくなる。


「………家のなかに入ろうか?」


するりと絡まる細腕でそう誘われて、
コクコクと頷く以外の反応が出来ようか。


縁側続きの長廊下、角を曲がったその先が俺
の知らないいのちゃんへと繋がっている。


古い造りのこの家は、父がとことん西洋式に
拘った絢爛豪華な我が家とは全く異なる。
直ぐには全貌を現さない様が奥ゆかしくて、
少しもどかしかった。


「どうぞ、」


するすると音も無く障子戸が開かれる。
いのちゃんに手を引かれたまま、俺は初めて
室内に足を踏み入れる事を許された。






部屋の真ん中で火鉢がパチッとはぜていた。
じんわりと温かな空気が冷えた身体を
溶かしていく。

天井には乳白色の吊り下げ電球、壁際に寄せ
て文机が置かれインク瓶とペン、それに書き
かけの原稿がそのままになっていた。

結霜硝子の食器棚と高さのある本立て。
びっちりと納められたそこから押し出されて
しまった本達が傍らに幾山も平積みされている。



“ にゃあ ”


既に火鉢の側を陣取ったミケが不服そうに
こちらを振り返った。
俺にいのちゃんの膝を奪われてしまったと思
い込んでいる彼はどうにも最近機嫌が悪い。


「今、お茶を淹れるから。
温かい処に座っておいで。」


いのちゃんはそう言って更に奥へと消えた。



「………ミケ、隣に失礼するよ。」


先客に一声詫びて、火鉢の傍らに腰を下ろす。
ミケはそっぽを向いたまま、それでも無言で
少しだけ尻尾を振ってくれた。

手持ちぶたさからそわそわして、右手に触れ
た厚みのある本を手にとってみる。
所謂純文学というものが俺は苦手だった。
元々想像力に乏しいのか、彼らの描く世界を
上手く咀嚼出来ない。


いのちゃんは、
どんな詩を書くのだろう。

*→←閑話



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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - ひびた。さん» ひびた。さんありがとうごさいます!詩って難しいですね、小学生以来書いた気がします。だいちゃんが良いひとで、私も書きながら胸が一杯になりました(>_<)ytin再会はだいちゃんの優しさがもたらした奇跡かもしれませんね。続も是非お付き合い下さい♪ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けいままさん» ありがとうごさいます。けいままさんに詩を読みたいとのコメ頂いて私覚悟を決めました 笑 お届け出来て一安心です** 高木君を見送って、ひとり見上げた秋の空 。いのちゃんが書いた最初の作品という事で☆気に入って頂けて嬉しいです(*´ー`*) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» 今日は。素敵なコメありがとうごさいます。私もにゃーごさんと全く同感でたった一つでも拠り所があれば結構頑張れてしまうものだなと思っています。お話中では皆の気持ちに寄り添って見上げた空の色まで表現出来たら嬉しいです。次章も是非読みにきて下さい☆ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» ありがとうごさいます。お話があちこちに繋がってどんな世界が広がるのか。私も書きながら探っていきたいと思います。次章、今暫くお待ち下さい( ´∀`) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - coさん» コメありがとうごさ います( ^∀^)色んなありいのを考えたのですが、だいちゃんはやっぱりだいちゃんでした。いのちゃんの気持ちを分かっていながら黙って側にはいられない。切ないけれどそれが答えなんですね。続編も宜しくお願いします* (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年10月23日 13時

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