検索窓
今日:13 hit、昨日:2 hit、合計:336,764 hit

第三話(tkin) ページ16

君が奪いし 麦藁帽子

去り行く其の背 見送りて

今は何処と 秋空に問ふ








異国からの汽船が到着した港街。
窓際から外を眺めれば、そこは乗客やら積み
荷やらが様々に行き交って騒がしくも活気に
満ちている。

ここには、誰だって何だって出来る可能性と
夢があるのだと信じてきた。


小さな貿易会社を設立して早7年。
一人きり、見様見真似で覚えた仕事は少しず
つ軌道に乗り始め、今や僅かながら従業員を
雇える迄になっていた。
港にへばり着く様に並んで立つ石造りの建物群、
その一角に仕事場を構えている。


秋空は、どこまでも高く、気持ちの良い風に
乗ってカモメが数羽目の前を旋回していった。


汽船の到着に合わせて部下は取引に出払って
おり、社内には俺一人きり。
ここ一週間程仕事が早急していた為、泊まり
込みを続けていた。
吹き渡る潮風の心地良さに瞼が次第に重くな
るのを感じる。



少しだけ、少しだけ眠ろう。



奥まった狭い部屋。
デスクにソファーを並べただけで一杯になる
そこが名ばかりの社長室だ。
上着を脱ぎネクタイをいくらか緩ると、ソフ
ァーにどっかりと疲れた身体を沈めた。

被っていた白色の中折れ帽で顔に蓋をする。
途端に暗くなる視界に夜を感じ、まっ昼間に
居眠りをする罪悪感が薄れる気がした。



少しだけ休ませてくれ、
大丈夫、立ち止まる訳じゃない。



俺にはまだまだやらなくちゃいけない事
が山程あるから。



新しい世の激流に飲まれた父親は、爵位を守
れなかった己の不甲斐なさに絶望し自ら命を
絶った。
優しく穏やかな人だった、商才や貪欲さを持
たない人間が生きるには難しい時代だった。


……多分、それだけ。


爵位を越えて成功を修めた事例も、反して没
落の一途を辿った悲話も数え出したらきりが
無い。
そんなもの道端に幾らでも転がっているつま
らない話だ。



俺は、“俺自身のため”にこの忙しく果ての無
い時代を生き抜いてみせる。



それでも身体は正直で、いくら意気がってみ
ても今の俺には、ソファーへと沈み込む重力
に逆らう力は残っていない様だった。

ぼんやりとした空間に誘われ、ゆっくりと意
識が遠ざかる。




“ねぇ、そんなに生き急いでどうするの?”



夢と現実の境目で声がする。
鼻に掛かった甘いその声に、俺はいつだって
胸の奥まったところをそろりと撫で上げられ
たものだった。


半ば夢の中で、俺はかつての同級生、
伊野尾君のことを思った。

*→←閑話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (515 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
821人がお気に入り
設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ぴよ(プロフ) - ひびた。さん» ひびた。さんありがとうごさいます!詩って難しいですね、小学生以来書いた気がします。だいちゃんが良いひとで、私も書きながら胸が一杯になりました(>_<)ytin再会はだいちゃんの優しさがもたらした奇跡かもしれませんね。続も是非お付き合い下さい♪ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けいままさん» ありがとうごさいます。けいままさんに詩を読みたいとのコメ頂いて私覚悟を決めました 笑 お届け出来て一安心です** 高木君を見送って、ひとり見上げた秋の空 。いのちゃんが書いた最初の作品という事で☆気に入って頂けて嬉しいです(*´ー`*) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» 今日は。素敵なコメありがとうごさいます。私もにゃーごさんと全く同感でたった一つでも拠り所があれば結構頑張れてしまうものだなと思っています。お話中では皆の気持ちに寄り添って見上げた空の色まで表現出来たら嬉しいです。次章も是非読みにきて下さい☆ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» ありがとうごさいます。お話があちこちに繋がってどんな世界が広がるのか。私も書きながら探っていきたいと思います。次章、今暫くお待ち下さい( ´∀`) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - coさん» コメありがとうごさ います( ^∀^)色んなありいのを考えたのですが、だいちゃんはやっぱりだいちゃんでした。いのちゃんの気持ちを分かっていながら黙って側にはいられない。切ないけれどそれが答えなんですね。続編も宜しくお願いします* (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ぴよ | 作成日時:2016年10月23日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。