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“ にゃあ ”

目が合った…のはその人ではなく寝そべった
ままこちらを見上げる三毛猫と。
私もいるわと不満そうに一声鳴いて、突然塀
の上に飛び乗ってきた。

驚いた俺は腰が引け、地べたに屈み込む様な
体勢になる。
我に返ってみれば、断りもなく塀の内を覗き
見た後ろめたさにギュッと身が縮む思いがした。
姿は見られていないのが幸いだ。
その場を辞すためしゃがんだままそろりそろ
りと慎重に足を進める。


ジャリ、ジャリと近づく草履の音。




「…どうかしたの、みけぇ?」




向こう側から響いたのは、鼻に掛かったとろ
りと甘い蜂蜜みたいな声だった。
あの猫は、“ミケ“って言うのか。
そのまんまじゃないか。


心内でそう一声ついて、もと来た道を逃げる
様に走り去る。
今度は、どこをどう曲がるのか道順全てを
しっかりと記憶しながら。



……また、あの人に会いたい。




それから、俺は度々そこを訪れる様になった。
とは言え、毎度塀の内を覗き込むのはあまり
に不自然、むしろ不審。
だから、なに食わぬ顔をして帰路を進みながら、
通りがけにふいっと壁の向こうのその人を見
やる、それだけ。


その人はいつも縁側に座っていた。
いつも着物姿、いつも麦わら帽子。
同じ姿で平積みにした本を読んでいる。
目線を落としているせいで、俺が気付かれる
事もない。


「こんにちは、ミケ。」


いつの間にかミケだけが、俺の来るのを待ち
わびて道の先で“にゃあ”と鳴く様になっていた。



季節が、移ろえば秋も深まる。
金木犀の香りも薄れた晩秋の街には、ひらひ
ら舞う落ち葉が目立つ。

しかし、その日は季節外れの小春日和でぽか
ぽかと暖かい日差しが気持ち良く降り注いで
いた。
自然と軽くなる足取りで、鼻唄交じりに勝手
知ったる四角を曲がる。

今日もあの人は、本を読んでいるだろう。
最近はひざ掛けにくるまり、寒そうに背中を
丸めていたから、今日の暖かさにさぞ喜んで
いるに違いない。


そんな思いで、いつものようにふいっと塀の
内側を見やった。




………眠ってる



ミケを懐に忍ばせたまま、寄り添う様にその
人は縁側で眠っていた。
重ねた細腕を枕代わりに、気持ち良さそうに
寝息をたてている。



思わぬ光景に俺は、立ち止まった。

見とれてしまった。



日溜まりに身を横たえるその姿は、あまりに
も可憐で美しかった。
子供のようにあどけないのに、触れたら消え
てしまいそうな儚さを纏ってもいる。


気付かれないのを良いことに、暫くの間じっ
とその寝顔を見つめていた。

*→←第一話 (ytin)



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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - ひびた。さん» ひびた。さんありがとうごさいます!詩って難しいですね、小学生以来書いた気がします。だいちゃんが良いひとで、私も書きながら胸が一杯になりました(>_<)ytin再会はだいちゃんの優しさがもたらした奇跡かもしれませんね。続も是非お付き合い下さい♪ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けいままさん» ありがとうごさいます。けいままさんに詩を読みたいとのコメ頂いて私覚悟を決めました 笑 お届け出来て一安心です** 高木君を見送って、ひとり見上げた秋の空 。いのちゃんが書いた最初の作品という事で☆気に入って頂けて嬉しいです(*´ー`*) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» 今日は。素敵なコメありがとうごさいます。私もにゃーごさんと全く同感でたった一つでも拠り所があれば結構頑張れてしまうものだなと思っています。お話中では皆の気持ちに寄り添って見上げた空の色まで表現出来たら嬉しいです。次章も是非読みにきて下さい☆ (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» ありがとうごさいます。お話があちこちに繋がってどんな世界が広がるのか。私も書きながら探っていきたいと思います。次章、今暫くお待ち下さい( ´∀`) (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - coさん» コメありがとうごさ います( ^∀^)色んなありいのを考えたのですが、だいちゃんはやっぱりだいちゃんでした。いのちゃんの気持ちを分かっていながら黙って側にはいられない。切ないけれどそれが答えなんですね。続編も宜しくお願いします* (2017年3月5日 13時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年10月23日 13時

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