ろくでもない夜に (ymin)

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「母親が身体を売って稼いだお金は、
治療費や入院代でほとんど消えちゃ
った。

保険にも入れないくらい心も病んでたみた
い。

俺は、ひとりになって身軽ではあったけど
同時に少し困ってもいて、

……時期が時期なだけにね。」


俺は、あいつが野垂れ死んでるかもって、
心中悪態をつきながら、４年間それを言葉に
することは出来なかった。
どんなに蔑んでも血の繋がりは絶対で、ひと
りになるのは怖かった。

今は、淡々と語るいのちゃんもきっと同じ。
俺たちの境遇は、よく似ていて、全然違う。



「高3になる間際で、今更辞めたくなか
ったし、大学にも行きたかったから。

継続的にまとまった収入を得られる都合の
良い仕事、何も持たない17歳が武器になる
仕事……いつも目の当たりにしてきた仕事。


俺は、“ 親友 ”の薮にそれを頼んだの。


お金を払って俺を買いたい上等な
“お客さま“を紹介してくれない？って。」



薮ちゃんが戻れないと揶揄した瞬間か。



「薮の父親は、大きなグループ会社の経営
者で人脈も豊富だって知ってたから。

“ 若くて綺麗な男の子、何したって良いか
ら一晩高く買いませんかって ”


薮は、後継者として既に華やかな世界と
その裏側もちゃんと知ってる奴だったか
ら。」



…


…


「……薮ちゃんは、何て言ったの？ 」


柔らかな枕に片頬を押し付けて、表情の半分
を隠したいのちゃんに問いかける。



「薮の答え？ 確か、

“それで、伊野尾が満たされるなら“
だったかな。」



「……そっか。 」



いのちゃんがするりと身を捩る。
俺は、そこで今更ながらいのちゃんが数時間
前迄薮ちゃんに抱かれていた事を思い出した。



「もう少し、休む？ 身体きついでしょ。」


いのちゃんは、昨夜一睡もしていないらしい。
その原因は俺にあって、薮ちゃんを追い詰め
た根元もまた俺にある。


「へいき。 夜は、眠くないの。

そういう身体になっちゃったから。」



夜が深くなるのは、これから。
カーテンの隙間から月の光が差し込んで、
いのちゃんの背中を一筋照らした。

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