ろくでもない夜に (ymin)

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「 ただいま。」

夕暮れの街を抜けて帰宅したのは、
17時半。
右手に提げたスーパーの袋が指に食い込む。
特売日だからって買いすぎたかも。
ダイニングキッチンへ直行し、慣れた手つき
で戦利品を納めた。


…………カタカタとパソコンを叩く音だけ。

次にダイニングにあるいのちゃん専用の冷蔵
庫に外国製のミネラルウォーターを補充する。
窓際に向けて置かれた簡易的な白いデスク
では、いのちゃんが“ 表の仕事 ”中だった。
上まで留めた白シャツにグレーのカーディガン。
ストイックな表情は、夜の彼とは別人で、こ
んな時だけ普通の家族であるかの様な錯覚に
陥るから不思議だ。

暫くその様を眺めていると、ようやく気配に
気付いたいのちゃんがふわりと振り返った。


「…帰ってたの？ おかえり。」


もう少し見ていたかったのに。
いのちゃんが建築士の仕事をしてる所。
通常、いのちゃんは昼過ぎに起きてきてシャ
ワーを浴びる。
夜の痕跡を一旦消して、午後からはこうやっ
て普通の在宅ワーカーに戻るのだ。


「ただいま。今日は、鯖味噌。」


食事を作るのは、俺の担当。
朝も夜も家で食べたくて4年前に勝手に始め
たのだが、今ではなかなかの腕前だと思う。
夕食は一緒に食べて、いのちゃんには朝食兼
昼食を用意していく。


「やった！！ …今日は機嫌良いね？」


好物と聞いていのちゃんは、可愛らしい声を
上げ後に昨日の俺を引き合いに首を傾げた。

昨日はやはり帰りが早過ぎたんだ。
慣れない平日の街、バスタオルから覗く素足
、手首に残る痣、手慣れた様子でチューブを
塗り込む姿……そんな全てに腹が立ちいのち
ゃんに冷たく当たってしまった。


“ 涼介って馬鹿だね ”

知念の言葉が昨日の俺をバッサリ斬り倒し、
虚しさばかりを増大させた。


「そうかもね。すぐ作るわ。」


キッチンへと踵を返す俺の背にいのちゃん
が続ける。


「ねぇ、今日って3人分作れる？

今から薮が来るんだけど。」

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