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形ばかりの夏休みが始まって、今日も朝から
登校。
昼を挟んで14時頃まで補習があった。
授業が終わると、斜め前の薮君はバタバタと
忙しく荷物をまとめ始めた。

「高木、悪い!すぐ行かないと次、間に合わ
ないんだ。

“ 伊野尾頼むわ ”」

薮君は、そう言って手を振る。
大手予備校の夏期講習は、夜遅くまで授業が
詰まっているらしい。
俺は、教室を後にする薮君の真っ直ぐな後ろ
姿を見送った。


「伊野尾君、この後どうするの?」

隣のクラス、廊下側の窓から顔を出し、ぼん
やりと座ったまま動かない伊野尾君に声を掛
ける。
伊野尾君は、ビクッと肩を揺らした後、ゆっ
くりとこちらに顔を向けた。

「高木……だ、どうしたの? 」

俺達の講習は、確か16時から。
まだ2時間近く空きがある。
外は暑いし、図書室あたりで時間を潰した方
が良いかもしれない。

「夏期講習、一緒のとこなんでしょ?
薮君に聞いたよ。
どうする図書室にでも行く?」

“やぶ…” と小さな声で呟いた伊野尾君は、
何だかとても寂しそうに見えた。

「……俺は、いいや。
どっかで時間潰すから。」

伊野尾君は、スクッと立ち上がると鞄を手に
教室から出てきた。
そのまま昇降口へ向けて歩き出す。
俺は、慌ててその後ろ姿を追った。

「ちょっと、待ってよ。
俺も行くから、外は暑いよ!」

薮君に“頼む”って言われたし、こんな真夏日
に外をふらふらしてたら伊野尾君が倒れてし
まうんじゃないかと不安に思ったから。
半袖シャツから覗く腕は、白くて細くて、折
れてしまいそう。
先を行く伊野尾君を追いかけて、右側に並ん
で歩いた。

「どこ行くつもり?」

「……決めてない。」

伊野尾君は、つまらなそうに言った。
やっぱり外は、暑い。
真夏の午後の日差しは、強烈だ。
しかし、伊野尾君は全く意に介さない様子
で灼熱のアスファルトをどんどん進む。
白肌に突き刺さる熱線。
いたたまれなくなった俺は、その手を強く引
いた。
伊野尾君が足を止める。

「……じゃあさ、涼しいとこ行こう。」



高架橋の下は、清涼感で満ちている。
水かさの減った川が静かに流れ、冷たい空気
が真夏である事をしばし忘れさせた。

「わぁ……涼しい。」

伊野尾君の声がコンクリートの壁に反響する。
通学路を逸れた先にある俺の夏の避難場所。
誰かを連れてきたのは、初めてだった。

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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - けいままさん» たくさんのコメントをありがとうございました!!ゆうと君を登場させる時は漏れなくけいままさんをおもっていました 笑 妄想ではありますがなるべくその世界に浸れるような描写を心掛けていたので、そう言って頂けてとても嬉しかったです☆ (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - ゆややさん» たくさんのコメントありがとうございま した!!無自覚シリーズは私も大好きで、自由奔放ないのちゃんを書くのはとても楽しかったです♪また続きをお届けしたいなと思ってます。次のお話も宜しければお付き合い下さい( ´∀`) (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» たくさんの楽しいコメントをありがとうございました!!お陰様で30話書ききることが出来ました。私もアナログ人間なので捲って楽しむ本が大好きです。たまに読み返して頂けたら嬉しいです☆ (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - えりささん» ありがとうございました!えりささんのコメで思い立ったたかいのは、今や大好きなcpです☆えりささんの作品も楽しみにしています。 (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
けいまま(プロフ) - 完結。素敵なお話達ありがとうございました。美しいJUMP君たちが繰り広げる美しい文章の妄想世界。ページを辿るとその世界の空気に触れられるようで、とても楽しませていただきました。最期に長身イケメンのお花屋さんありがとうございます。 (2016年8月30日 22時) (レス) id: d225e5d52f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年7月25日 19時

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