雲ながれて月隠す(続々々 jump×jump)

○fin ページ41

「…………どうしよう。。」

されるがままだったいのちゃんが
ポツリと呟いた。
やっぱり困惑してる。
勢いでここまで突き進んできたけど、12年前
の“ぷろぽーず”なんて無効なのかな。

実は、ものすごく打たれ弱い僕は逃げ出した
い気持ちだった。
普段自信満々だからこそ、失敗や拒否という
ものが怖くて堪らない………、


「どうしよう……ドキドキしちゃった。」


……ゆっくり顔を上げたいのちゃんは、真っ
赤に頬を染めながらそう続けた。
身体をふるふる震わせながら左手に嵌めた指
輪をギュッと包み込む。


「知念からの“ゆびわ”嬉しい……。」


おもちゃのルビーがいのちゃんの手の中で
安っぽくいやにピカピカ光って見える。
いのちゃんに恋をした幼い自分が認められた
みたいで嬉しかった。
いのちゃんがおもちゃの“こんやくゆびわ”
を受け取ってくれる人で良かった。


「……い、いのちゃん……うぅ 」


何故だか涙まで溢れてくる。
これじゃまるで情緒不安定だ。


「ち、ちねん？大丈夫？」

僕が泣くなんて初めてだからいのちゃんが
焦ってオロオロしている。
だって、溢れてくるものは仕方ないんだもん。

「……いのちゃん、大好き。

僕ね、ずっとずっと大好きだったの。」

“大好き”を子供みたいに繰り返す。
男の子同士は結婚出来ないって知った時、
いのちゃんに恋人が出来た時、
いのちゃんが先に大人になってしまった時、
僕がただの可愛幼馴染でしかない現実に
打ちのめされたことは山ほどあったけど、

でもやっぱり“大好き”だったんだもの。


「……いのちゃん、“結婚して下さい”」

＊ Can you marry me ? ＊
…………

「指輪受け取ってくれたんだから、
もう僕だけのいのちゃんだからね。」

すっかり涙が引いた僕は、いのちゃんを
ベッドに押し倒していた。
見下ろせば真っ青な顔をしたいのちゃんが
バタバタ暴れている。

「ちょっと！やだやだ！

泣いてたピュアな知念はどこいったの！」

さっきも言ったけど僕の方が力はあるから
いのちゃんの細い手足ではびくともしない。


「僕だってもう18歳なの。

……散々我慢してきたんだから。」

少し低めの声で囁くと組み敷いたいのちゃん
の身体がまた少し強ばった。

「……もう、知念ってピュアなんだか
大人なんだか全然分かんない。」

「僕をこんなにするのは、

いのちゃんだけだよ……」

覆い被さる様に唇を塞げば、寸前に漏れる
いのちゃんの声。

“ “知ってたよ”” って舌を絡めた。

(fin)

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