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「……俺もタカキって言うけど、
君の探してるタカキさんとは違うと
思うよ。」

あり得ない考えを払拭し、なんとか声を絞り
出した。
違う、別人だ。彼の筈がない。

「君、タカキって言うんだ。」

違うと告げた言葉をまるで無視して、その子
はにっこりと笑った。
僅かに触れるだけだった指先を今度は俺の指
先にしっかり絡めて身体を寄せてくる。

「……見つけた、タカキ。」

「だから、違うってば!」

思わず声を荒げれば、いつの間にか向けられ
ている好奇の眼差しに気付く。
暗がりで相手を探しているのは何も俺だけで
はない。
この子は、あまりに目立ち過ぎる。

ひとりその場に置き去りにする訳にもいかず
これ以上の立ち話も面倒だ。
俺は、絡まったままの手を引いてすぐ近くに
あるホテルへと足を向けた。
客をとった時の為、いつも押さえている部屋
がある。

並んで歩けば、数センチ下で揺れる肩。
俺と比べても背は決して低くはない。
半袖のシャツから伸びる腕は、華奢だが絡ま
る指先に女のようないやらしさはなかった。
この曖昧な者が男に違いないと確信する。

レトロという表現がぴったりの老舗のホテル。
もちろん夜の街に建つそこは、昔から身体と
身体を繋ぐための場所だった。
決して広くない室内だがニスの効いた木製の
ベッドや猫あしのバスタブ、アンティークの
ランプが密かな行為にはぴったりだった。
俺は、ここが気に入っている。

部屋に入り、繋いでいた手をほどくと、彼は
名残惜しそうに指先を泳がせた。
それから部屋中を見渡して、楽しそうに言っ
た。

「良い部屋だね。時間が止まってるみたい。」


俺は、小さな冷蔵庫からビールを取り出して
彼に勧めた。
躊躇なく受け取って喉に流し込む手慣れた姿。
麦わら帽子をポンッとベッドに投げ捨てて、
ビールの味が残る苦い苦いキスをする。
チュッと音をたてて唇が離れるのを待って
俺は、もう一度彼に告げた。

「…だから俺は、君が探してる……」

「タカキはタカキだよ。
俺は、タカキを一人しか知らない。」

俺の否定を遮って、彼は当たり前の様に言う。
ベッドに腰掛けてこちらを見上げる眼差しは
どこまでも深く、飲み込まれてしまいそう。
どうやら受け入れるしかないようだ。

「…分かったよ。
君が探してたのは“俺”ってことなんだね。」



「“君” って呼ばないで。

……“けい” って呼んでよ、タカキ。」

その響きに胸のなかにしまい込んだ記憶がじ
んわりと空気に溶け出るのを感じた。

○→←28 すきまの少年(tkin)



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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - けいままさん» たくさんのコメントをありがとうございました!!ゆうと君を登場させる時は漏れなくけいままさんをおもっていました 笑 妄想ではありますがなるべくその世界に浸れるような描写を心掛けていたので、そう言って頂けてとても嬉しかったです☆ (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - ゆややさん» たくさんのコメントありがとうございま した!!無自覚シリーズは私も大好きで、自由奔放ないのちゃんを書くのはとても楽しかったです♪また続きをお届けしたいなと思ってます。次のお話も宜しければお付き合い下さい( ´∀`) (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» たくさんの楽しいコメントをありがとうございました!!お陰様で30話書ききることが出来ました。私もアナログ人間なので捲って楽しむ本が大好きです。たまに読み返して頂けたら嬉しいです☆ (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - えりささん» ありがとうございました!えりささんのコメで思い立ったたかいのは、今や大好きなcpです☆えりささんの作品も楽しみにしています。 (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
けいまま(プロフ) - 完結。素敵なお話達ありがとうございました。美しいJUMP君たちが繰り広げる美しい文章の妄想世界。ページを辿るとその世界の空気に触れられるようで、とても楽しませていただきました。最期に長身イケメンのお花屋さんありがとうございます。 (2016年8月30日 22時) (レス) id: d225e5d52f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年7月25日 19時

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