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「そこに座ってごらん、足入れると気持ち
良いよ。」

伊野尾君が川縁に腰掛け、制服のズボンを捲
り上げる。
白く華奢な足首が、透明な水に浸される。
水面がゆらゆら揺れた。

「うん……気持ち良いね。」

伊野尾君は、おそらく今日初めて笑った。
パシャパシャと足先を動かして、水飛沫を
たてながら、無邪気な笑顔を見せる。
何故だか俺まで嬉しくなって、同じ様に伊野
尾君の隣に座り込んだ。
染み入る冷たさが火照った身体を落ち着かせ
てくれる。


「…伊野尾君、志望校のレベル上げるの?
頭良いのに、今さら夏期講習だなんて。」

薮君に代わって聞いてみる。

「……いや、変えないよ。そのまま。」

伊野尾君は、今度は両手を水面に沈めている。

“…じゃあ、何で? ”

目線で問うと、伊野尾君はポツリと呟いた。

「別にやることもないし……

“ ひとりでいてもつまらないから ”」

沈めた両手で水をすくって、自分の答えを
誤魔化す様に空に投げた。
水飛沫の向こう、伊野尾君の横顔が消えそう
に儚かなく映る。
寂しさを押し殺して、平気な顔を作っている。
何て健気なんだろう。

「じゃあ、一緒だね。俺もやることないし。」

「…高木は、あるだろ。勉強しろ。」

伊野尾君は、そう言ってまた笑ってくれた。
あぁ…このままずっと笑っていて欲しい。

「ちょっと、待ってて!」

俺は、一旦川縁を離れると道路脇に残る昔な
がらの個人商店を訪ねた。
時間が止まったかの様なレトロな佇まい。
店先に出された古びたケースを覗き込み、
水色の袋を2つ手に取った。

「はい、どうぞ。」

伊野尾君の頬にその冷たいアイスを袋ごと
押し当てる。
突然の冷たさに一瞬身を固くした伊野尾君だ
ったが、水色のがりがりとしたそれを口に含
むと“ おいしい ” と言ってくれた。

口に運ぶたび、がりがりと小気味良い音を響
かせて、アイスはあっという間に小さくなる。
最後の一口を舐め取った伊野尾君は、当たり
の付いた棒をくるくる回してこっちへ向けた。

「……当たり。

ねぇ、明日も一緒にアイス食べよう。」

伊野尾君が甘えた声でねだる様に、俺のシャ
ツをクイッと摘まむ。

目と目が合って、柔らかな唇が触れて、俺の
アイスがポトリと落ちた。

伊野尾君は、素知らぬ顔で立ち上がる。
濡れた手足をハンカチで拭って、捲り上げた
ズボンを下ろし、全てを元通りにした。

俺だけが固まってその場から動けなかった。
いつの間にか落ちたアイスに蟻が集まってきて、溶けた水色の塊に列をなす。

…俺は、伊野尾君とキスをした。

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設定タグ:Hey!Say!JUMP , BL   
作品ジャンル:恋愛
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ぴよ(プロフ) - けいままさん» たくさんのコメントをありがとうございました!!ゆうと君を登場させる時は漏れなくけいままさんをおもっていました 笑 妄想ではありますがなるべくその世界に浸れるような描写を心掛けていたので、そう言って頂けてとても嬉しかったです☆ (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - ゆややさん» たくさんのコメントありがとうございま した!!無自覚シリーズは私も大好きで、自由奔放ないのちゃんを書くのはとても楽しかったです♪また続きをお届けしたいなと思ってます。次のお話も宜しければお付き合い下さい( ´∀`) (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 夏夢さん» たくさんの楽しいコメントをありがとうございました!!お陰様で30話書ききることが出来ました。私もアナログ人間なので捲って楽しむ本が大好きです。たまに読み返して頂けたら嬉しいです☆ (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - えりささん» ありがとうございました!えりささんのコメで思い立ったたかいのは、今や大好きなcpです☆えりささんの作品も楽しみにしています。 (2016年8月31日 20時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
けいまま(プロフ) - 完結。素敵なお話達ありがとうございました。美しいJUMP君たちが繰り広げる美しい文章の妄想世界。ページを辿るとその世界の空気に触れられるようで、とても楽しませていただきました。最期に長身イケメンのお花屋さんありがとうございます。 (2016年8月30日 22時) (レス) id: d225e5d52f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴよ | 作成日時:2016年7月25日 19時

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