雲ながれて月隠す(続々々 jump×jump)

23 ぬるい部屋(ytin) ページ1

yt

恋は国境も年齢も時には、性別さえ越えて存
在すると言うけれど、決して許される事の無
い想いの行き着く先を知っている人は、いる
のだろうか。

誰か教えて下さい。
想うことさえ許されない、禁断でいて不毛な
恋に身を焦がす憐れな俺に。

16歳、高校一年生。
僕は、実の兄に恋をしていた。


慧は、俺の3歳年上であり唯一の兄弟。
可愛くて、綺麗で、頭の良い兄は、ずっと
俺の自慢だった。
父親似の俺と母親似の慧は、顔が全く似てい
ない。
男らしい俺とは異なり、慧は女の子と見ごま
うばかりの愛らしい容姿を持っていた。
すらりと伸びた細い手足、ふっくら柔らかい
輪郭、透けるような白い肌。
慧より綺麗な女の子なんていない。

俺は、いつだって慧の側にいた。
虐められて泣いた時、二人で迷子になった時、
大事なおもちゃを無くした時……
何事にも動じない慧は、頼りになる兄であり、いつも俺の一番の味方だった。

慧は、俺のもの。
幼い弟の独占欲が熱を帯びたのは、いつから
だろう。
俺は、クラスメートが可愛い女子に恋する様
に慧を想うようになっていた。

漠然とした憧れは、行き場を無くしてさ迷う
ばかり。
でも、それまでは良かった。
行き着く先を知らないのなら、それ以上を
望むことも無い。

大学生になった慧は、一人暮しのため家を
出た。
入れ替わるように、俺は高校生になる。
慧が引っ越した春の日は、晴天で不思議と寂
しくはなかった。
そんなに遠い距離じゃないし。

「じゃあね、裕翔。
勉強頑張るんだよ。」

にっこり笑った慧は、兄らしくそう言った。

「うん、慧も頑張って。」

俺も弟らしく手を振って、去り行くうしろ姿
を見送った。
この日までは、まだ上手く兄と弟でいられた
のだと思う。

高校生活が始まると、勉強も部活も忙しく
慧のいない寂しさに浸る暇もなかった。
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
兄への憧れを越えた想いをもて余していた
俺には、ちょうど良い日々だった。

あっという間に、夏休みがやって来て8月初め
に慧が帰ってきた。
あの春の日に離れてから、初めての再会。
久々に慧に会える…、ただ嬉しかった。
今なら、弟として慧に会える。
俺の不毛な想いは、落ち着きを取り戻してい
た、はずだった。

「ただいま、裕翔。久し振りだね。」

蝉がやかましく鳴いていた。
玄関に立つ慧の髪がきらきら光る。
黒かった髪は、明るい茶色になっていた。

「……慧？随分、変わったね……」

外見だけでは無い。
兄が纏う雰囲気は、それまでとは違っていた。

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