この世の欲しを花と云う(続 jump×jump)

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これが帰宅ラッシュというやつか。
夕方の駅のホームはサラリーマンや学生で
溢れ返っていた。
俺は、大学近くに住んでいるため、通学に
電車は使わない。
ましてや郊外へ向かうこの路線に馴染みなんて
ある筈も無かった。

間もなく電車の入線を知らせるアナウンスが
響いた。
列の先頭に並んでいた俺は、それか3両目で
あることを確認して扉近く一番端のシートに
座った。
ここならきっと見えるよね…。

発車メロディーが鳴り、各駅停車はふらふら
と走り出した。
徐々に加速し、景色が車窓を流れていく。


「山田君！いのちゃんを宜しく頼むね。」
ピンク色の髪の毛が似合う綺麗な男。
光君は、大きな目を更に大きくして俺の手
を握って頭を下げた。

今日は圭人が光君とお出掛けする日。
見事光君とデートの約束をした圭人から
相談を受けたのは先週の木曜日。

「光君、いのちゃんが一人で帰ること
を心配してるみたいなんだ…」

「やまちゃん…いのちゃんを送り届けて
くれないかな…？」

…？だって大人の男だろ？
一人で帰れない訳が無いだろうが。
正直いって馬鹿馬鹿しい話だと思ったの
だが、折角圭人が勝ち取ったチャンスだ。
心置きなく光君と楽しんで来て欲しい。

かくして俺は、いのちゃんを送り届けること
になってしまった。

どんな顔？どんな服装？特徴は？
俺は、いのちゃんを見たことが無い。
矢継ぎ早に質問する俺に圭人は、

「すごく可愛いヒトだから絶体分かるよ。」

とだけ言った。

“3両目のドア近くに乗ってくる”
これは光君からの情報。
間もなく二駅目のホームが近付いてきて、
電車のスピードが遅くなる。
見つからなくても俺のせいじゃないからな。
言い訳をしながらも開くドアに意識を集中
させる。


……！あっ…いた。……いのちゃんだ。


すぐにピンときてしまった…。
それは間違いない今まで見たなかで一番
可愛いヒトだった。

茶色でふわふわした髪の毛、透き通る白い肌、
ぱっちり二重の大きな瞳、柔らかそうな唇。
どんな女の子より可愛い男がそこにいる。
俺は、暫くその姿に釘付けになった。

いのちゃんは、ドア近くの手摺に身体を預け
狭い空間に身を寄せた。
捲ったシャツから覗く細い手首、ボタンが
開けられた首もとが白く輝いてみえる。
込み合う車内にやや息苦しそうに顔を
歪ませたいのちゃんの横顔。

……確かにこれは駄目だ。

その後、案の定いのちゃんは気色悪い男に
狙われて、俺はいのちゃんを助け出すこと
になるのだった。

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