この世の欲しを花と云う(続 jump×jump)

○ ページ24

yb

その小動物の様に可愛いらしい男は、何か
を吟味するみたいにじっと俺を見つめている。
応える様に俺もその目を見つめ返した。

「…あの…どこに運びます？」

再び投げ掛けられた同じ質問に、俺は
ハッとして我に返った。
彼は返事を待っていたのか…
いつの間にか見とれていたのは俺の方。
気恥ずかしくなり、少しそっけなく答える。

「…あぁ…いつも向こうの倉庫の前に
運んでもらってるよ。」

廊下の先を指差してやると

「分かりました。ありがとございます。」

と深く頭を下げながら積まれた段ボールを
抱え直した。
…一人で運ぶのか？あんなにたくさん？
山積みの段ボールと小柄な身体を交互に
眺めているとどうにも放っておけない気分
になってくる。

でも、準備室には光が待ってるしなぁ…
空き時間ここだけなんだよなぁ…

ぶつぶつと暫く葛藤していた俺だが、
目の前を通り過ぎる成人男性にしては
あまりに小さな身体に覚悟を決めた。

「…運ぶの手伝うよ。それかして。」

抱えていた一際大きな段ボールを奪いとった。
彼は、目を大きくして驚いた表情を見せ
たが、直ぐに申し訳なさそうに眉を下げた。

「すみません…ありがとございます。
今日はちょっと量が多くて…。」

…それにしても多い。
二人で何度も往復してやっと全て運び終わった頃にはだいぶ時間が経っていた。

こんなにたくさん一人で納品するのか？
世の企業は人手不足なのか？？

体力がある訳でもない俺は、すっかり
疲れきってしまった。
彼もまた額から汗が流れている。
なんだか可愛そうになった俺は、自販機でミネラルウォーターを買い彼に手渡した。
彼は、また瞳を大きくさせる。

「手伝って貰ったうえ
すみません…飲み物まで…。」

お礼を言いながら、胸ポケットから名刺を
取り出した。

「この学校の納品を担当しています
“知念 侑李”です。
よろしくお願いします…えっと…」


「俺は、薮。 薮 宏太です。
ここで日本史を教えてるの。
よろしくね、知念君。」

名刺を受け取り、笑顔で自己紹介をすると
知念君もにこりと口角を上げて綺麗に笑う。

こうして“偶然に”俺は、知念君と顔見知りになった。
ミネラルウォーターを飲み終える頃には
授業の終わりを告げるチャイムの音。

…光との二人きりの時間も終わった…

○→←○

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す