＊ ページ4
「いらっしゃい、まさか店じまいなん
て此処には無いもの。」
声の主に振り返ったいのちゃんは、そう
言ってにっこり笑った。
どうやら顔馴染みであるらしい。
鬼火だ、狐火だと内心ざわついていた自分が
恥ずかしくなる程に目の前に立つ青年は、爽
やかで凛とした美丈夫だった。
濃紺の着物に浅黄の帯、青磁色の羽織を合わ
せ、その手には丸い提灯を提げている。
足元の足袋も草履もちゃんと見える。
時折揺れる灯火に足元の影がゆらりと歪むの
だけれど彼は間違いなく人であるに違いない。
「今晩は、こちらへはいつから」
柔らかな目元をこちらへ配わせ彼は、軽く頭
を下げた。纏う雰囲気の他口調まで穏やかだ。
「‥あ、えと俺はその」
「だいちゃんは今日から此処に泊まるん
だよ、今はちょうど光の作る晩御飯の
話をしてたとこ。
裕翔こそどうしたのこんな時分に。
暗がりは苦手じゃなかったかい？」
口ごもる俺に代わってすんなりといのちゃん
が応じてくれる。
そうだ、俺はいつの間にか此処に居て、でも
それはついさっきの事なのだ。
やはり時の流れがあべこべで困る。
「やっぱりそうか、昼過ぎに随分雨が降っ
たからもしかしたらと話をしていた所だ
ったんだよ。
宜しくね、だいちゃん。」
すんなりと名前を呼ばれてしまえば、もう俺
はすっかり彼を受け入れる他術は無い。
いのちゃんもひかも、裕翔も、彼等もまた俺
を受け入れてくれるのだから。
「これから夕飯だと椀を並べた頃になっ
てお茶が切れてるのに気付いたんだよ。
暗がりは苦手だけどほら、今夜は満月
だろ。どうしても黄金色の茶が飲みたく
なってこうしてやって来たの。」
「ふふ、そうだったんだ。
待っててね。今包んでくる。」
いのちゃんは、嵌め込んだ雨戸の隙間から
室内へと姿を消した。
どうやらここは茶屋であったらしい。
今頃気付いた自分が気恥ずかしかった。
夜空を見上げれば確かに満月が浮かんでいる。
雨雲はどこか遠くへ流れてしまったらしい。
裕翔もまた佇んだまま同じ様に空を見上げて
いる。
背が高い、和装が似合う、本当に見映えがす
る立ち姿だなとまじまじ眺めていると、その
陰で別の灯りがちらちらと揺れているのに気
が付いた。
そうだ、向こうからやって来る灯りは確か二
つではなかったろうか。
灯りの主が提げ提灯であるならば、
「ほら、侑李いい加減出ておいで」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 379人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Hey!Say!JUMP」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぴよ(プロフ) - coさん» coちゃんコメントありがとうございます＊掴みどころの無い不思議な世界で一見普通にでも奇異に存在する彼等を表現したいなと思って書いています。うまく表現出きるのか‥楽しく挑戦できたらなと☆ (2020年8月19日 0時) (
レス) id: 20d979f9fd (このIDを非表示/違反報告)
co(プロフ) - きゃらきゃらと笑いあうinとhk。何処にも属することのない（俯瞰する？）大ちゃん。夏の暑い夜に涼風が立つようなお話、楽しみにしています(^ ^) (2020年8月17日 0時) (レス) id: 1fe03fc97a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
