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うっすらと肩に雪を乗せて裏木戸を潜り、
火鉢のはぜる居間に腰掛ける。
温かな湯を口に含み一息ついて、
ふと真っ白に染まった庭を眺めた時、
縁側に小さな雪のかたまり見つけた。
それはいつかの雪だるま、
南天の赤い目、枯れ枝の眉、枯葉の口元、
愛らしく鎮座した母様の思い出。
「……おかえり、裕翔」
眠っているだろと声を掛けるの控えていた
寝室から俺を呼ぶ小さな声がする。
力を失っても包み込むような優しさは変わら
ない。
いつでも俺を生かしてくれるのはいのちゃん
の声。
「ただいま、これ」
今のいのちゃんにそんな力が残っている筈が
ない。
起き上がるのもやっとなのだから。
「…さっき高木が来ていったの、
圭人と山田君も一緒でこれから年越し
そばを食べに行くんだって。
“最後”のお願いって雪だるまを作って
貰った。」
いのちゃんはそう言ってふわりと笑った。
死の際で母様が残していった雪だるま。
真っ赤な鮮血ばかりが鮮明でこれまで思い出
す事を躊躇ってきたのだけれど、
「…いのちゃん、ありがとう」
本当は嬉しかったんだ。
母が最後に思ってくれたのは
俺だったのだと。
「ふふ、御礼なら高木に言ってあげて。
冷たい冷たいって言いながらも楽しそう
だったけど、」
横になったままのいのちゃんにそっと覆い被
さる様にして細くて薄い身体を抱き締めた。
いのちゃんもまたゆっくりとした所作で俺の
背に腕を伸ばしてくれる。
深々と降る雪の静けさだけがそこにはある。
「……ねぇ、ゆうと。
俺が死んでも泣いちゃ駄目だよ。
こうやって互いに息をした日々を思い
出し幸せだったなって、笑っておくれ
ね、」
いのちゃんがあんまり自然に言うものだから
素直に“うん”と頷ける程に俺は強くなってし
まった。
年の瀬に降る雪の白さは
あなたの柔肌の如く
触れたら消えてしまうから
そっと唇でなぞるだけ
降り積もれいつまでも
消えてはならぬ 春が来る迄
終
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ぴよ(プロフ) - 梨乃さん» 梨乃さん長い間本当にありがとうございました。何度も読み返したくなるお話を書きたいと思ってきたのでとても嬉しいです。終らせてしまうのは私自身にも寂しさがあったのですがお話もいっぱいになりちょうど頃合いなんだろうなという気持ちです。 (2023年2月5日 12時) (
レス) id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
梨乃(プロフ) - 6年前初めてこのサイトで読んだ作品が浪漫廻廊でした。ぴよさんの紡ぐ言葉が美しくて、何度も何度も読み返したとても印象深い作品です。素敵な作品と出逢わせていただき本当にありがとうございます。 (2023年2月5日 0時) (レス) id: 74d5f2a7dd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けーままさん» けーままさんありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ずっとずっと私の頭の中にも懸命に生きる彼等が見えますよ⭐ (2023年1月27日 13時) (レス) @page47 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
けーまま(プロフ) - ぴよさんの文章は本当に素敵です。何回も読み返す度に頭の中で彼等が生きています😌 (2023年1月26日 20時) (レス) @page46 id: 3a21aa44cd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 遅くなりました。夏夢さんお元気でしたか？コメントありがとうございます。世界が動いた時にはまた共有したいなと思いながらもご無沙汰しております。穏やかにありたいですね。 (2023年1月25日 13時) (レス) @page45 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
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