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「お邪魔します」
一言添えてから裏木戸を潜り、縁側に回る。
僕が先生からの用向きで訪ねる時、あの人はいつも
縁側にいた。
今はすっかり空っぽのそこにミケだけが丸く陣取っている。
中島裕翔の姿がないことが意外で立ち止まった僕を一瞥した
後ミケは“にゃあ”と鳴き足元にじゃれついた。
「……僕なんかに懐いてどうするのさ」
猫の気まぐれさえ受け取れない僕。
頭を撫でると温かく何故か泣きそうになった。
「ミケ、ご飯だよ。あれ、知念君？」
長廊下の向こうから姿を見せた中島裕翔はミケを撫でる
僕を見て少しだけ驚いた表情を見せた。
いつもの僕なら先生からの要件を伝える事に躊躇なんて
ないけれど、今日はうまく言葉が出ない。
僕はどうしてここに来たんだろう。
「……あの、これを、」
まとまらない思考のまんま差し出したそれ。
あの和菓子が納められた箱を目にした中島裕翔は、
“わぁ”と小さく感嘆の息を洩らした。
「すごく綺麗な練りきりだね。薮先生から？」
僕が私用でここを訪ねた事はなかったから当然だ。
それでも良いにつけ悪いにつけ先生に関して僕は嘘を
つけない。
「いえ、先生は今休業中です。
僕は今日だいちゃんのお店でこれを見つけて
あなたに見せたいと思いました。
僕にも理由は分からないのです。」
隙間を満たすように穏やか秋風が吹き抜けていく。
空だってきっと青い。
「……ありがとう。いのちゃんもきっと喜んでる
るよ。」
中島裕翔はそう言って微笑んだ。
そう、僕はまるでこの庭を閉じ込めたみたいに美しい
あの和菓子を彼等に見せたかったんだ。
「休業中ってことは知念君にも時間があるって
ことだね。今お茶を入れるから一緒にどう？
今日はこんなに穏やかだから縁側が特等席だよ。」
今の僕には拒む理由なんてなかった。
中島裕翔を待つ間、縁側に腰掛け仰向けに寝転んでみる。
目を閉じたまんま、聞こえてくるのは小鳥の囀りだけ。
風に吹かれた枝木がふわりと揺れる気配もする。
甘い茱萸の香りが庭を優しく満たしているらしい。
「……ほら、やっぱり青い」
ゆっくりと目を開いたそこには
高く高く秋空が広がっていた。
「お茶がは淹いったよ。
少し熱いから気をつけて。」
盆に乗せた３つの和菓子。
僕と中島裕翔、そしてあの人の分。
熱いお茶にそれはとてもよく合った。
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ぴよ(プロフ) - 梨乃さん» 梨乃さん長い間本当にありがとうございました。何度も読み返したくなるお話を書きたいと思ってきたのでとても嬉しいです。終らせてしまうのは私自身にも寂しさがあったのですがお話もいっぱいになりちょうど頃合いなんだろうなという気持ちです。 (2023年2月5日 12時) (
レス) id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
梨乃(プロフ) - 6年前初めてこのサイトで読んだ作品が浪漫廻廊でした。ぴよさんの紡ぐ言葉が美しくて、何度も何度も読み返したとても印象深い作品です。素敵な作品と出逢わせていただき本当にありがとうございます。 (2023年2月5日 0時) (レス) id: 74d5f2a7dd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けーままさん» けーままさんありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ずっとずっと私の頭の中にも懸命に生きる彼等が見えますよ⭐ (2023年1月27日 13時) (レス) @page47 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
けーまま(プロフ) - ぴよさんの文章は本当に素敵です。何回も読み返す度に頭の中で彼等が生きています😌 (2023年1月26日 20時) (レス) @page46 id: 3a21aa44cd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 遅くなりました。夏夢さんお元気でしたか？コメントありがとうございます。世界が動いた時にはまた共有したいなと思いながらもご無沙汰しております。穏やかにありたいですね。 (2023年1月25日 13時) (レス) @page45 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
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