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ー 宵の間に現れ早々に沈んでしまう三日月の
姿の如く、心が割れてしまったかの様に
物思いに耽るこの頃であることよ ー
ひかる君は流れる様にそう続けた。
「いのちゃんならどう訳したろう。
訳するなんて不粋ことしないのかもしれないね。」
途端脳裏に浮かび上がったのは宵の間の空に細く浮かぶ
美しい三日月の姿だった。秋の頃、縁側に腰掛け二人で
眺めたことがある。
満月の雄大さに触れながら、いのちゃんはまた三日月を
切なげに見つめていたものだった。
「よく来てくれたね、裕翔。
彼、に頼まれたんだろう。裕翔ならきっと引き
受けて此処まで辿り着くと思っていたよ。」
知念君は各々にショートケーキと琥珀色の紅茶を並べる
と衝立の向こうへ消えた。
依頼人と薮先生を待つ間、彼はいつもそこにいてそっと
様子を伺うのだという。
静まり返った室内に薮先生の吐き出す煙だけか細くたな
びいている。
芳しい紅茶の香りと舶来のそれが混ざり合いまだ知らぬ
異国の果てに囚われた様な気分にさせる。
「そんな大したことではないよ。
消印は港近くと聞いたけれど届け主は、
少年であったとも話していたから。
さっき立ち寄った郵便局は外来便の山で消印の後
は無法地帯だった、知念君なら如何様にも出来る
だろうと確信したよ。」
優秀な薮先生の助手は自由自在に姿を変え、どんな依
頼でも立ち所にこなしてしまう。
全ては先生のために、それだけが彼を動かすのだ。
ひかる君が“ここ“に居ると半ば確信していた。
４つのショートケーキはそれを物理的に証明する俺な
りの手段だったと言えるのかもしれない。
今、目の前にちゃんと並んだそれらが少しだけ俺を安
心させる。
「探しものはこれだね、きっかり10枚ある。
何も意地悪した訳じゃないんだよ、現にほら
裕翔は彼の依頼に見事応えた訳だろう。」
ひかる君は封筒に納められた原稿を手渡してくれる。
丸眼鏡の向こう色素の薄い瞳が愉しげに弧を描いた。
まるで三日月だ、
「
見た月はそれはそれは優雅で神々しく、地平の果
てで尚大きく輝いていたけれど、俺はやっぱり
宵の間に浮かぶ三日月が好きかな。
欠けた部分、見えない闇こそ人を想う余地が
ある。」
弱音を吐いてしまえ、そう言われている気がした。
「…寂しい、寂しくて堪らないんです。」
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ぴよ(プロフ) - 梨乃さん» 梨乃さん長い間本当にありがとうございました。何度も読み返したくなるお話を書きたいと思ってきたのでとても嬉しいです。終らせてしまうのは私自身にも寂しさがあったのですがお話もいっぱいになりちょうど頃合いなんだろうなという気持ちです。 (2023年2月5日 12時) (
レス) id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
梨乃(プロフ) - 6年前初めてこのサイトで読んだ作品が浪漫廻廊でした。ぴよさんの紡ぐ言葉が美しくて、何度も何度も読み返したとても印象深い作品です。素敵な作品と出逢わせていただき本当にありがとうございます。 (2023年2月5日 0時) (レス) id: 74d5f2a7dd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けーままさん» けーままさんありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ずっとずっと私の頭の中にも懸命に生きる彼等が見えますよ⭐ (2023年1月27日 13時) (レス) @page47 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
けーまま(プロフ) - ぴよさんの文章は本当に素敵です。何回も読み返す度に頭の中で彼等が生きています😌 (2023年1月26日 20時) (レス) @page46 id: 3a21aa44cd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 遅くなりました。夏夢さんお元気でしたか？コメントありがとうございます。世界が動いた時にはまた共有したいなと思いながらもご無沙汰しております。穏やかにありたいですね。 (2023年1月25日 13時) (レス) @page45 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
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