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「宜しければこちらをどうぞ。」
縁側に面した客間に通すと、差し出したお茶を恐縮し
ながらも飲み干した彼は乱れた息を整え改めてこちらに
向き直った。
「ありがとうございます。気ばかり焦ってしまうの
は私の悪い癖でして。やはりこの職業は向いてい
ないのかもしれません。先生方は自由奔放でいら
っしゃいますから。」
ため息交じり漏らした本音と共にいやいやと首を振る。
「いや、私の話はどうでも良いのです。
単刀直入にお願い申し上げます。
“八乙女先生”を探しては頂けませんか？」
「……ひかる君を、ですか？」
思わぬ依頼にその名を口にした俺を見逃さず、
ここぞとばかり彼は深々と頭を下げてくる。
「やはり先生を御存じでしたか。
私は嵋空書房で八乙女先生の担当しております。
勿論先生が自由気儘な猫の様に掴み所の無いお方
だと痛い程承知はしております。
担当になってからも実際にお会いした事はござい
ませんし、住所はおろか連絡する術も我々は持っては
いないのです。
しかし、先生はこれまで決して原稿を落とす事は
ありませんでした。
海外に周遊中であろうとも締め切りにはきちんと間に
合う様に郵便が届いていたのです。」
つらつらと語らう彼に呆気に取られながらも
俺はいのちゃんの友人であるひかる君を思った。
怪奇幻想を得意とする推理小説家であった彼は、いのちゃ
んの亡き後作風を変え海外を周遊し旅行記を寄せる様にな
った。
そうか、“嵋空書房”はひかる君の掲載雑誌の版元なのだ。
「……でも海外周遊中であるなら、いくら探したと
しても連絡の仕様等結局無いのではありませんか？」
いのちゃんならひかる君の気配を感じとり、訪問の時期が
分かるのかもしれないけど。
俺にとってはまだ掴み所の無い不思議な人であり、
その点では目の前の彼となんら変わりはしない。
力になれるとは思えなかった。
「それならば諦めもついたのですが、
どうやら先生は既に日本へ帰港されている
様なのです。
この度の原稿は港近くの消印があり、
差し出し日もほんの２日前でした。
何より配達を請け負ったという少年が、
先生本人からそれを受け取ったと話しておりま
したから。」
「……少年、ですか？
いやでも原稿が届いているなら問題は無いの…」
「足りないのです！きっかり10枚分が！」
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ぴよ(プロフ) - 梨乃さん» 梨乃さん長い間本当にありがとうございました。何度も読み返したくなるお話を書きたいと思ってきたのでとても嬉しいです。終らせてしまうのは私自身にも寂しさがあったのですがお話もいっぱいになりちょうど頃合いなんだろうなという気持ちです。 (2023年2月5日 12時) (
レス) id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
梨乃(プロフ) - 6年前初めてこのサイトで読んだ作品が浪漫廻廊でした。ぴよさんの紡ぐ言葉が美しくて、何度も何度も読み返したとても印象深い作品です。素敵な作品と出逢わせていただき本当にありがとうございます。 (2023年2月5日 0時) (レス) id: 74d5f2a7dd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けーままさん» けーままさんありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ずっとずっと私の頭の中にも懸命に生きる彼等が見えますよ⭐ (2023年1月27日 13時) (レス) @page47 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
けーまま(プロフ) - ぴよさんの文章は本当に素敵です。何回も読み返す度に頭の中で彼等が生きています😌 (2023年1月26日 20時) (レス) @page46 id: 3a21aa44cd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 遅くなりました。夏夢さんお元気でしたか？コメントありがとうございます。世界が動いた時にはまた共有したいなと思いながらもご無沙汰しております。穏やかにありたいですね。 (2023年1月25日 13時) (レス) @page45 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
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