日々徒然(ytin) ページ1
蝉の鳴き声がぐるぐると深い緑
の中を回っている。
体の良い木々が立ち並ぶいのちゃ
んの庭で彼等は朝に晩に様々な声
で短い生を唄う。
カラカラに乾いた亡骸を見付ける度に、
どうしようも無く愛しい気持ちになるのは
“生き抜いた末”の労いを感じるからかもしれ
ない。
打ち水は撒いた側から蒸気になって、
真夏の空に還っていく。
暑さの盛りを迎え、ミケは一日中木陰で伸び
て動かない。
“チリンッ”
気休めに吊るした風鈴の音は、存外涼やかな
気分にしてくれる有り難い代物だった。
「……いのちゃん、暑くない？」
ここ最近、熱を出す事が増えたいのちゃん
は氷枕に頭を乗せて静かに横になっていた。
僅かに首を傾げては、庭先に咲く夏の花々
を眺めている。
悠々と咲くヒマワリも蔓を延ばした朝顔も
寝たきりで見上げると果てなく遠く、遥か
高みで生きている様に見えるのだと言う。
「………大丈夫、氷枕気持ち良いよ。」
打ち水を終えた俺は、縁側からいのちゃん
の部屋に上がり枕元に座った。
そっと頬に触れてみる。
熱で上気したそこは蒼白でありながら、吐き
出す息は酷く熱い。
団扇を手にとりパタパタと風を送る。
貼り付いた前髪がふわりと揺れて、いの
ちゃんは気持ち良さそうに目を細めた。
「………あぁ、気持ち良い、
今日はあんまり風が無いから」
前髪を優しく鋤きながら、暫くの間いのちゃ
んに風を送った。
伏せられた長い睫毛も僅かに開いた柔らか
な唇も、そこから紡がれる甘い声も全てが愛
しく大切で、
改めて俺はいのちゃんに生かされている
のだと思った。
この人の隣でしかもう息が出来ない、
のだと。
だからこそ夏場になって食欲の落ちたいの
ちゃんの細い手首や更に薄くなった背に触れ
るのは少しだけ怖かった。
守ってあげたいのに、止める事の出来ない
現実も確かにそこには存在している。
“ ゆうと一人じゃないよ、
俺だって高木だっているから “
そう言って励ましてくれるのは大ちゃんだ
った。
圭人の処方してくれる薬でいのちゃんは、
落ち着きを取り戻しこうして日々確かに息を
している。
ひかる君から届く絵葉書は、見たことの無い
建物や風景が描かれていて、いのちゃんは
それをとても楽しみにしていた。
「まだまだ知らない世界があるんだね、
全てを見に行けたら良いのに……」
子供みたいにあどけないいのちゃんは、
とても可愛いかった。
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ぴよ(プロフ) - 梨乃さん» 梨乃さん長い間本当にありがとうございました。何度も読み返したくなるお話を書きたいと思ってきたのでとても嬉しいです。終らせてしまうのは私自身にも寂しさがあったのですがお話もいっぱいになりちょうど頃合いなんだろうなという気持ちです。 (2023年2月5日 12時) (
レス) id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
梨乃(プロフ) - 6年前初めてこのサイトで読んだ作品が浪漫廻廊でした。ぴよさんの紡ぐ言葉が美しくて、何度も何度も読み返したとても印象深い作品です。素敵な作品と出逢わせていただき本当にありがとうございます。 (2023年2月5日 0時) (レス) id: 74d5f2a7dd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - けーままさん» けーままさんありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ずっとずっと私の頭の中にも懸命に生きる彼等が見えますよ⭐ (2023年1月27日 13時) (レス) @page47 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
けーまま(プロフ) - ぴよさんの文章は本当に素敵です。何回も読み返す度に頭の中で彼等が生きています😌 (2023年1月26日 20時) (レス) @page46 id: 3a21aa44cd (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 遅くなりました。夏夢さんお元気でしたか？コメントありがとうございます。世界が動いた時にはまた共有したいなと思いながらもご無沙汰しております。穏やかにありたいですね。 (2023年1月25日 13時) (レス) @page45 id: e4c9d3b3cb (このIDを非表示/違反報告)
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