【＃コンパス】氷砂糖のような (ページ8)

今日:11 hit、昨日:20 hit、合計:48,250 hit

氷砂糖7つページ8

歓迎会、か。

今日はこのシステム内に来たばかりなので、ソーンに案内してもらいながら施設内を把握する程度で丸一日つぶれてしまった。

管理人も忙しかったらしく、僕の歓迎会......とやらは明日になるらしい。

ほかの住人と時間がずれてしまったので、私とソーン、訓練をしていたという兄さんは今夕食を食べていた。

「こうやって3人でお食事するの、ひさしぶりで嬉しいです！」

ソーンが本当にうれしそうな顔をしてご飯を食べる。
3人しかいない食堂は実に静かだった。

「本当だね、僕もうれしいよ」
「ああ」

僕も、兄さんも続けて笑顔になる。
ああ、この世界に来れて本当に良かった。

またこうして、3人で平和に食卓を囲むなんて。
もうできないと思っていたから。

「......姉様」
「どうしたのソーン」

「......姉様はどうして、無理をするのですか」

兄と同じことをいう。本当に二人は似ていると思う。

「......無理なんてしてないよ、それにソーン、僕のことは」
「姉様は女の子なんです」

「......ソーン、」

兄さんが悲しそうな顔をする。
駄目だよ。

僕は......

「......どうして、変わってしまったんですか」

違う。

「昔の姉様は、どこに行ってしまったんですか」

違う、違うよ。

「今朝voidollさんのところに行っていたのって......

　性別を無理やり変えてもらうよう、頼んでたんですよね？」

「違うってば！！！」

ダンッ！
勢いよく机が音を立てた。手がじんじんと痛む。

ソーンは少しおびえながらも、しっかりとこちらを見ていた。

......強くなったな。

「......A」

兄さんが僕に言った。

「......お前が如何して自分を偽っているのか、俺たちはもう知っているんだ。
　......ここにはもう、お前を否定するやつなどいない。」

如何してそんなこと言うの。

「俺はお前の兄なんだから」
「僕だってついてます」

「......あ、」

気が付けば二人に、力いっぱい抱きしめられていた。
相変わらず、だな......

「......ありがとう」

無理できなくなっちゃうよ。

兄さんとソーンにはきちんと謝って、穏やかな夕食をとった。

「......姉様が今のままでもいいのなら、僕は止めません。......姉様が過去の呪縛にとらわれなければ、それでいいんです」

就寝前、ソーンはこう言って自室に戻っていった。

......過去の呪縛、か。