【＃コンパス】氷砂糖のような (ページ11)

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氷砂糖10つページ11

「......汗だくだ」

思ったよりも早く目が覚めてしまった。
否、布団に潜っているのに耐えきれなかったのだ。

自分で感じていたより肌が湿っていて、寝間着が張り付いて気持ち悪い。

「......顔、洗おう」

お手洗いは共用なのだが、洗面所は一人一人の部屋についている。
こういうとき変な心配をされなくて済むからいいなあ。

汗だくになっているといつも兄さんが心配してくるから、毎回困る。

「そりゃあ心配するだろう、暑くもない日に汗だくになっていたら」

まあそれもそうなんだけどね、言い訳をするのが......

ん？

「くおｗらｂひでｓふじこｒあ！？」
「何言ってるのかわからないぞ」

「ノックしてから入ってよ兄さん！」
「ノックしたが返事がなかったからな......」

......最悪だ。
兄さんはすでに着替えも済ませてぴしっとしているのに対し、僕は寝間着のまま突っ立っている。

「......ソーンは......」
「まだ寝ているが」

良かった。なんとか弟よりは早い。

「......お前。うなされてたんだってな」
「......」

ジャンヌから聞いたのか。

「昔のこと......って、あの時のこと、だろう？」

僕は答えない。
答えられない。

「......過去の呪縛にとらわれるな、A。」

「......そんなこと言っても、」

「その姿であろうとする限り、お前からあの日の記憶は離れないぞ」

「......僕は、このままじゃなきゃいけないんだ」

ぽつり。

「僕があのあと、この姿にならなきゃいけないって決めた理由。兄さんは知ってる？」

「......A」

「王宮ではいろんなところで噂されてたよね、どうして......」

「A」

「......どうして、女なのかって。......男だったらよかったのに、って」

側近の僕が、女だったから。
力不足だったから。

だから兄さんは傷を負った。僕自身も。

「......そんな奴らの話なんか聞くな」

兄さんはあの時こういった。

でも無理だった。
頭の中でいつも、いつも反響してて。

逃れられなかった。

「............済まなかった」

兄さんは僕に謝った。

ああ、罪のない人は謝っちゃダメなんだってば。

「......僕は後悔してないよ。あの時のおかげで、力不足なのを再確認できた。......調子に乗ってたんだよ、きっと」

「A、」

「兄さん、出て行ってくれないかな。.....少し疲れているんだ」

「......わかった」

......ごめんね、兄さん。