ci/形影早朝 ページ7
ひとりが怖い。
大きなトラウマから、ちょっとした出来事、そうなった理由は人によって様々だと思う。
大人になってだいぶマシにはなったけど、完全にあの恐怖を忘れ去ることなんてできない。嫌だ。独りは怖い。ひとりは
「♪」
軽快な鼻歌が聴こえてハッとする。
ジュージューとフライパンで油が跳ねる音もする。
「ん…」
頭を横に向けると、ベランダから差し込む朝の光が、ストライプの毛布と空いた枕を暖めていた。
まだ見慣れないブルーグレーのシーツを見て、ようやく眠気から解放されていく。
そうだ。ここはチーノの家。昨日は仕事の後、夜ご飯を外で済ませてから、部屋にお邪魔して、ゲームして動画見てそれから…
もぞもぞと布団から上半身を出すと、思いのほか薄着で寒気を覚えた。
「ん？A、起きたんかあ？そのままやと風邪ひくから、そこにあるやつ着てええよー」
そう言われてすぐ、畳んで置かれたグレーのスウェットが目に入った。
頭から被る。袖が余りまくった。
「おはようさん。やっぱ俺のじゃでかいなあ」
カラカラと笑いながらお皿とマグカップを持ってくるチーノ。
トーストとこんがり焼けた目玉焼きと薄切りベーコン。
「たまご割れてしもたけど、ほら、こうやってのせれば上等やろ！」
「おいしそう…」
「やろ！冷める前に食お！」
いただきます。
トーストから香るバターと卵の相性が最高だ。カリカリのベーコンもたまらない。
「チーノって料理上手なんだね」
「えー今知ったん？次はオムライス作ったるからな」
ありがとう、と言うと、少し見つめられてから頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「こちらこそ、昨日はありがとうな。えらい可愛かったでえ」
「あー恥ずかしいからやめてー」
昨晩のことを思い出して顔が熱くなる。
「ちょっとだけど腰痛いんだから…」
「それは、うん。すまん。詫びることしかできん」
テーブルに頭を擦り付けるチーノ。思ったより申し訳なさそうにしててちょっと面白い。
「これ、渡すから、許して」
そう言って渡されたのは、ストラップの付いた
「鍵？………え」
もしかして
「合…鍵」
「まあ、うん」
「いいの？ほんとに」
顔は見えないけど、うなじと耳が赤く染っている。
「いつでも来てええから…って、うお！」
思い切り抱きついた。
顔を埋めると、どないしたんと笑って、よしよしと背中をさすってくれた。
そのあたたかい手のひらが、ひとりにしないよ。
そう言ってくれている気がした。
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作者名：ながゆ | 作成日時：2023年1月27日 6時
