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彼女と桜を見にいって以来、俺は機嫌も良く、書生としての本業もつつがなく、舞い上がっていました。
何度も告げはしましたが、やはりあの日彼女が来てくれたのが嬉しくて、柄にもなく彼女に高めのリボンなど買ってみたりもして、少々浮かれながら久々に店を訪れました。
「……信介さん！ お久しゅう御座いますね」
入ってきた俺を見て、彼女は嬉しそうに笑います。
俺はいつもの席について、いつもの珈琲を注文しました。
手際よく珈琲を淹れる彼女の背中を見ながら、リボンを受け取ったらどういう反応をしてくれるかと想像しました。
「はい、珈琲」
差し出された珈琲を一口飲んでうまいとひとりごちて、彼女を呼び止めました。
「此の前は、本当に有難う」
「……いえいえ、楽しかったです」
「それで、礼というか詫びというか、ちょっとしたリボン買うてきたんや」
「！」
Aは面食らったような顔をしたのち、しばしの間黙り込みました。
どうしたものかと首をかしげると、彼女は今にも泣きそうな顔をしながら首を横に振りました。
「――お気持ちは嬉しいんです、でも受け取れへんのです、」
まさか拒否されるとは思っていませんでしたので、あっけにとられました。
と同時に、自分は彼女にとって少しはいい男だったのではという自信が、思い上がりだったことを悟りました。
「御免、」
「……信介さんは、悪ないねん」
瞳に涙をためながら、彼女が震える声で言います。
「話したことお父様には内緒な、……あたくしに縁談が来たんです」
「エッ、」
驚きで言葉が出ませんでした。
彼女が結婚なんて、想像もしていなかったのです。
「あたくしまだ十八になったばかりです。そんなこと嫌だとは思いました」
「……」
「でも、お父様には逆らえなくて……いいところの息子さんだから、断るなんてと」
嗚咽交じりの声で、彼女は言いました。
その様子から、彼女が此の縁談を嫌がっていることは一目瞭然でした。
……とはいえ、何かしてやれることなどあるでしょうか？
「そうか、」
何も浮かばず、かけてやれる言葉も見つからず、俺はただAを取られた悔しさに、手の中のリボンの包みを握りしめました。
「あたくしは……たぶん近いうちにお嫁に行きますけれど……此処の珈琲は美味しゅう御座いますから、いつでもぜひ」
泣きそうな彼女の言葉を聞いて、堪えられずに逃げるように店を出ました。
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シノブ(プロフ) - ココアこなさん» うわあああありがとうございます！方言や世界観にはとても苦戦したので褒めていただけて嬉しいです……！ありがとうございます！ (2018年5月8日 21時) (
レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ココアこな(プロフ) - 全体的に北さんの雰囲気に合った世界観、時代背景で、夢主との幸せを願いたくなる様な素敵な作品でした！あっ上からでスミマセン(´・ω・`) (2018年5月6日 18時) (レス) id: aa502ae987 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シノブ | 作者ホームページ：http://twitter.com/tam_shino
作成日時：2018年5月5日 23時
