季節外れの線香花火が落ちる夜８時 ページ8
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「ねえ、線香花火しない？」
「先に落としたほうが言うこと聞く、にしよう」
それは明日はオフだと、部屋を片付けていたときにどこからか出てきた。どうせならみんなでやりたいと、探したけれど二本しか出てこなかった。あの人はなんだかんだでこうして遊ぶのが好きだから、と自分に言い訳をしつつも声を掛けた。
中庭でしゃがみこんで、なんだか気恥ずかしくなって誰かにバレないようにと、ろうそくに火を点した。見上げると、いいね。そうだな、ん〜〜スリルがあったほうが面白いと思わない？と笑う彼女の表情が、ソウルの明るすぎる夜空にも妖艶に浮かんだ。
「言っとくけど俺、線香花火得意だよ？」
「Aも意外とこういうの好きだよ」
タメ口で話してももともと怒らないけれど、少しばかりふわふわしていて、ヌナの一人称が名前呼びになっていて、頬が紅く見えたから、きっとこの人は酔ってるんだな。と一人で納得した。
そんなことを考えているうちに勝負はあっさりと勝ち越して、ああさむいさむい、と慌てて部屋に戻った。言い出しっぺは眠たそうに僕のベッドに腰掛けて寝ぼけ眼で見つめてくる。まだ８時過ぎ、されどヌナはもうねむいよ、と合っていた視線が柔らかくふわふわと揺れるのがわかる。だんだんと閉じていくヌナの瞳に顔を近づけても抵抗されなかった。
そっと口づけると柔らかい唇が小さく開いて擽ったそうに笑ったから。
「…ん、？」
「ぬなの明日、おれにぜんぶちょうだい」
今この時間から、全部あげるよ。そう言ったのは心の声だったのか、ヌナだったのか、もう何もわからなかった。
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続く
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