呼ばれ慣れずに此の愛は巡り続ける ページ3
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デビュー前だったか、
インタビューで好きなタイプは?と聞かれたAが愛嬌のある人、と答えていたのを聞いて何を思ったか恥ずかしさを捨てた。よく覚えている。
そこまでテンションが高いわけでも声が高いわけでもないし、何となくかっこいいに振り切るには恥ずかしさを捨てきれなかったから悩んでいただけで。
「ヒョンはいつもかわいいね」
当たり前でしょ〜?今みたいに笑うAの笑顔が見たくてキャラ変までしたんだから!、ところでヒョン呼びなんてなに奢って欲しいのA?と今ではもう笑っていえるくらいの感情なんだと思う。
あの頃は苦しかった。この世界にたった一人しかいないAを巡って、見えない駆け引きがひしめき合っていたのを鮮明に思い出すくらいには。今も真剣に本気になっているのはいったいどのくらいいるんだろうか。3人は居そうだな。
元々、狭い作業部屋に閉じ籠って半分寝ながら曲作りをするのが昔から好きだった。いまでは立派な作業部屋になって少しこっ恥ずかしい気もする。
コーヒーを頼んだというAが下で受け取ってきたいくつかの弁当を抱えてフロアで叫んでいた。今日の僕のお弁当は唐揚げ弁当だ。
「ヒョーーーン!唐揚げ弁当頼んだー?」
「そう!いくらだった?」
いいよカードで払ったし、と笑うAの優しさに甘えておごってもらうことにした。今度なにか頼むとき呼んでね、僕が払うから。と言うとそんなこと気にしなくたっていいよー!と笑うのが目には見えていたから何も言わないでおく。
Aの好きなドーナツでも宿舎の冷蔵庫に入れておこう。Aの。と書いておけばメンバーも勝手に食べることはないだろう。いや、今頼もう。どうせあの子ならいつも寝てるからって起こしにやって来る。
「あれ、珍しく起きてる」
「Aちゃん待ってたヤー」
ぼんっと耳まで真っ赤になったAがドアを開けたまま立ち止まってしまって、席から立ち上がって引きずり込んで胸に抱き寄せた。
ヒョンやマンネたちにつきっきりのAをたまには甘やかさなきゃ。日本語でAちゃんって呼ばれるのはいつになっても慣れない、と言っていたのをバッチリ記憶していた。
「え、ど、どうしたの」
「んー?ここにいて」
小さなAを膝の上に収容してそのまま作業を続けると静かになるから首元に顔を埋めるとふわっとシャンプーの香りが誘う。
くすぐったいと肩を上げるAの首筋にチュ、と音を立てて痕の付かない程度にリップを押し付けてみた。
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画面越しに見える僕だけの君が笑う→←近づけば近づくほど距離はおかしく**
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