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宵夜の夢に.。9 ページ10

カイさんは黙ったままで何も言わなくなってしまった。お互いに悪気は全くないのだから余計に質が悪く居心地が悪いと感じてしまうのだろう。
 カイさんと、私と……陰りを帯びる樹海の中、陽は頂点に差し掛かろうとしていた。
 先に口を開いたのは、カイさんだった。おとぼけた顔で、私を見る。

「どうやら、あなたは本当に記憶喪失になってしまっているようですね」

 忘れてしまった空白は、ぽっかり空いた穴の様で申し訳なくなる。
 頼りになるのは自分の記憶だけなのに、その記憶すら曖昧だ。

「でも、あの空間から一時でも出られたなら……」
「……あの空間……?」
「はい、そうです。ジョーくんやミシマ先生の亡くなったあのゲームの空間の……」
「……あなたは未だ覚えているんですか?」
「カイさんは記憶に在りませんか?」
「残念ながら、サラさんに託したと言う曖昧な記憶しか……」

 それは新たな情報だ。此処に居ると、あのデスゲームの記憶さえ薄れていくらしい。良いことなのか良からぬ事なのかは分からないが、今の私には、少しばかりでも躁鬱な気が晴れそうだった。

 もしも、それまで忘れてしまったら……?

 私が私で在ることすら忘れてしまうのだろうか。

 サラさん、ケイジさん、Q太郎さん、カンナ、レコさん、ナオさん、ギン、アリスさん、そして、ソウさん……。あの場に、残された皆を、忘れていくのだろうか。
 それだけじゃない、ジョーくんやミシマ先生も……カイさんも……忘れてしまうのか?


 安心と恐怖は一緒。安堵すれば恐怖を畏れ、恐怖すれば安堵を求める。


「私は、あなたのこと忘れませんよ」
「これからも、いままでも」


 ふっと笑ったカイさんを見上げ、私も釣られて笑ってしまった。

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戒さん好きのリーディア - 夢主に一票!同じカイさんの小説作者として、よろしくお願いします! (2018年3月26日 19時) (レス) id: d2b4ff70fa (このIDを非表示/違反報告)
Raimu - 夢主に1票です!!! 毎回毎回楽しく読ませて頂いています!! 更新頑張ってください! (2018年3月4日 23時) (レス) id: d43f7c840c (このIDを非表示/違反報告)
のえる - 夢主に1票!面白かったです!(>_<) (2018年3月4日 22時) (レス) id: 05cf06e837 (このIDを非表示/違反報告)
華歌黒(プロフ) - 夢主に一票で、更新頑張ってください (2018年3月3日 20時) (レス) id: caf1f4a4c9 (このIDを非表示/違反報告)
Ripper Mac - 更新頑張ってください…!ガチで一話目から涙出てきました…((本当です。 すごい気持ち入れて見てしまいました…。楽しみにしてます!! (2018年3月2日 22時) (レス) id: 0d7940a4a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: 夢匣 | 作成日時:2018年3月2日 16時

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