貴方と曇りと雨、 (ページ6)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:20,006 hit

. ページ6

「た、試されてんなあ…」

「ユウタさんが、最初に仕掛けてきたんじゃないですか」

「はは、そうやな！」

なんとかして紡ぎ出した言葉が、自分で自信のなさを証明してしまったようで恥ずかしかった。

この子の目の奥には野心が燃えている、ごうごうと、見たこともない火力で。
中途半端な言葉じゃ、近づけもしないのだ。

でも、俺は、一緒に燃える炎になりたいと思う。
この火力に、この熱さに、等しい自分の炎を手に入れたい。どうしたら出来るだろう、どうしたら君と胸を張って隣に並べられるだろう。

「あ、ぼく行かないと…」

「あー、引き止めてごめんな、俺も練習室戻るわ！つぎ試されても、応えられるよう、練習してくる」

「…応えなくていい、です」

「え？」

「ぼくに、応えないで、その、なんて言えばいいかわかんないんですけど、ユウタさんがやるべきことをやれば…」

ごにょごにょと文末を濁して、バツ悪そうな顔をするのは何故だろう。
その火にあてられたのは俺で、それでやる気になったのも俺。
いいことじゃないのだろうか。なにも火を燃やした本人がなにかを心配する必要などないというのに。

「ぼくは、その、ちょっと異質だから。自分で言うのもなんですけど」

「まぁ、自分で言うのもなんやけど異質やなぁ」

「うん、異質で、いつか消えちゃうかもしれないものに応えるのは、あんまりよくないんです。それなら他との関係性とかやりとりに応えたほうが…」

いつかこの子は遠くへ行ってしまうのではないだろうか。

何か底知れぬものを抱えて、ひっそりと消えてしまいたくなるのではないだろうか。
その細い身体にすべてを抱えて、潰れてしまわないだろうか。

「名前、聞いていい？」

「あ、え？あ、Aです」

「A、うん。………A！」

「はい！？」

「A、明日も会えへんかな？ここで、朝、一緒に自主練しよう」

「え、え？」

予想外のことを言われたのか、オロオロと焦り出すA。
トレーナーさんに確認してもいいですか？と不安げな顔をするので、もちろんいいよ、と笑って返す。

まだ、まだ遠くを感じるには何も始まっていないよ、A。
始まってなければ、終わりは来ない。

ならば、もう少し、ここにいて欲しい。
遠くへ行かないように願いながら、
俺は始まりのボタンを押していた。