夏油くんの初恋の女の子の話【夏油傑】

初恋01 ページ1

＊









＊






隣の席の夏油くんは、いつも窓の外を見ていた。




誰とも話さず、笑うこともなく、ただじっと窓の外を見ていた。
私はただの平凡な中学生で、人見知りで、男の子が苦手で、だから隣の夏油くんとは全く、話すことは無かった。




話すことは無いと思ってた。





だけど、ある日。机から夏油くんの消しゴムが転がり落ちて、私の足元まで転がってきた。夏油くんは相変わらず窓の外を見ていて、気付いていないようだった。




そのまま放っておこうかと思ったけど、私の足元にあるし、なんだか放っておくのも居心地が悪いなと思ったから、消しゴムを拾って、かなり勇気を出して、夏油くんに話しかけた。




　「あ、あの」



　「……ん？ 何？」




　同じクラスになって、初めて聞いた夏油くんの声は、びっくりするくらい柔らかかった。




これはかなりのイケボでは。



とオタクの私は興奮してしまった。



そのせいだったのか、私はやらかした。
　


「け、消しゴム、おちゅっちましたよ…！」



　「………」



　「………」

　


やっちまったと私は思った。
これはやったな、私、と。噛むにしても、もう少しマシな噛み方があっただろう。




おちゅっちましたよってなんだ。滑舌悪すぎか？笑われるだろう。





いや、夏油くんだから真顔で無かったことにしてくれるかもしれない。それはそれでなんか居た堪れない。




……だけど、彼の反応はそのどちらでも無かった。




夏油くんは、少しだけ微笑んで、「ありがとう」と言って消しゴムを受け取った。





それだけだった。私は、あ、夏油くんって笑うんだと驚いたと同時に、彼の手が、指が、とても綺麗だと思った。





今ままで誰に対しても思ったことは無いのに、何故か彼の手を綺麗だと、直感的に感じた。







その時きっと、私は彼に恋をした。
　
　

初恋02→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す