夏油くんの初恋の女の子の話【夏油傑】

初恋06 ページ6

＊









＊



あの言葉は、きっとそのまま裏返して受け取っていい言葉だった。




だけど、私たちはまだ子供で、なんだか気恥ずかしくて、聞かなかったことにして。






その裏返しの言葉を、再び改めて伝える勇気なんてなくて、隣同士、いくらでも話す機会なんてあったけど、私は真っ白なノートと向き合って、君は相変わらず窓の外ばかり眺めていて。
　




君の見ている世界は、私にはきっと永遠に見えなくて。





それが何だか少し寂しくて。





この、学校という小さな世界の、教室という小さな国の中でしか、君と繋がる場所はなくて。





だけど私は臆病だから、伝えられなくて。






そのまま、君は君の道を進むことになって、私も私の道を進むことになって、その最後の日、まだ桜が蕾のままの卒業式の日。







やっぱり私の言った通り、実はモテてた君の制服のボタンは笑っちゃうくらい取られてて、でも第二ボタンはどうやら誰も貰えなかったらしくて、そのボタンの行方が少し気になったけど、君は私に、胸につけてた花をくれたから、やっぱりちょっと、特別だったのかなって嬉しくなって。
　





夏油くんの連絡先は聞かなかった。





どこに行くかも、聞かなかった。





だけど、彼はきっと、自分の道を進むんだろうと思った。
　
　





だからね、私と君の道はもう、二度と交わることはないって思ってた。
　
　







＿＿＿＿そう、思ってたんだけどね。
　
　

初恋07→←初恋05

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す