そのボディガード、クズにつき_? ページ9
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有栖川に傑くん、と呼ばれた少年は、ぱっと有栖川の方を向いた。
そして、げっと顔を歪ませる。
「嫌われてんなあ。あと相変わらず良い前髪」
「良い前髪って何ですか。…別に嫌っては無いです。ただ、その頬に付いてる紅葉の後に呆れてただけで」
「相変わらず可愛げのないガキだな、夏油傑くん」
有栖川は憎まれ口を叩きながら、夏油少年の隣に、よっこいせと座り込む。
おっさんくさと笑う夏油少年の頭を小突き、缶ビールを開けた。
「お前も飲む?」
「未成年なんですが?」
「ああ、そうだっけか。いや、お前妙に達観してるから成人済みだと思ってたわ」
そんな冗談を言いながら、有栖川はビールを煽り、夏油少年は渡されたジュースを飲む。
少年と有栖川の関係は、名前を付け難い。
何となく有栖川が夏油少年を見つけ、何となく興味を持って、何となく話しかけて、見かけたら何となく会話を交わす。
ただそれだけの関係だった。
それだけの関係だが、夏油少年にとって、有栖川と交わすこの空間は、家よりもどこよりも居心地が良かった。
夏油少年はそっと隣を盗み見る。
そこに居たのは、思わず魅入ってしまうほど整った顔の男。
女ならば、放っておかないであろう美男。
だが美しいのは顔だけで、ヘビースモーカーでうわばみ。ギャンブル好きで女を落としては金をせびる。たまに雇い主の小遣いまで使ってしまうという。
社会的に見れば、誰もが『クズ』と称する男。
だが、そういう男に限って、否応無く人を惹きつけるのだと、夏油少年は有栖川という男で知った。
そして少年は知っている。
「…疲れないんですか?」
「何が?」
「クズで居るの」
「……随分唐突だな」
有栖川はふんっと鼻を鳴らす。
「クズで居るも何も、正真正銘、俺はクズだよ」
「俺はそうは思いませんけど」
「…お前みたいな勘のいいガキは嫌いだよ」
なんつって。と有栖川は缶ビールの最後の一口を飲む。ごくり、と喉仏が上下した。
そしてぐしゃりと缶を潰し、夏油少年を見る。
血のように赤い瞳が少年を捕らえる。
「少年、特別に良いことを教えてやるよ」
ーーお前の察しの良さを讃えてな。坊っちゃまも気付いてないってのに。
有栖川はその時初めて、小さく笑った。
「人間、呪いみてぇに自分に言い聞かせてりゃ、次第にそうなってくんだよ」
ーー人生の先輩からの教訓だ。覚えとけ。
そう囁いた男の顔はクズから程遠かった。
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紅葉(プロフ) - お兄さんの方から飛んできました! 展開にワクワク……とうじさんのこの後の展開にぴえん……多くの感情う渦巻きつつ読んでおります笑笑! 無理なさらぬ程度に更新頑張ってください! 続き楽しみにしています! (2021年3月20日 22時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 五条少年が苦労するとか面白すぎwwwホントなら反面教師になるんだろうけど、恐らく彼を見て育ったから将来クズになるのかと想像してしまいます(笑) (2021年3月14日 22時) (レス) id: 947326f28f (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 好きです(絶命) (2021年3月14日 21時) (レス) id: 824a9496d4 (このIDを非表示/違反報告)
ミミ - 入さん» 本当ですか!!! (2021年3月14日 19時) (レス) id: f539e89f92 (このIDを非表示/違反報告)
入(プロフ) - めちゃくちゃ好みの話です!!!!!!!!!!!!!!!!! (2021年3月14日 16時) (レス) id: 6c29c74858 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨ノ | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月14日 9時