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人は誰しも、情報を知る権利がある。
だから私は私の主観は一切入れず、あるがままの事実を伝えることに徹してきた。
それが私の信条であり、根幹を作っているもの。
それを捻じ曲げる日が来るなんて思ってもいなかった。
「目が覚めて早々に働いて、それでまた倒れるってどういうつもり」
「1秒が惜しい状況だったの。許してよ」
「…赤塚知事の会見聞いた。あとはニュースレターの独占取材も」
あのあと動画を編集しながら、喜多見チーフ伝いで赤塚知事へ連絡させてもらった。
手元にあるデータを天沼幹事長が優先的に妊婦への治療を促したという方向性で編集して、それを急遽放送すること。
それを受けて赤塚知事が口裏を合わせて会見でさらにアピールすること。
尚を守りたい私と、MERを守りたい赤塚知事の共同戦線だった。
「尚、クビになんないよね？」
「おかげさまで」
「っ、よかったぁ……」
「ちっともよくない」
気の抜けた私に対して、ベッド脇の椅子に座っていた尚は、眉を寄せて私のことを強く睨む。
「真実を捻じ曲げて報道するなんて、普段のAなら絶対にやらないことだ。こんな事態じゃなかったら、Aの信念を汚すようなことはなかった」
「私のちっぽけな信念と、尚の未来を天秤にかけた結果だよ。尚だって、今までいい子ちゃんばっかりでやってきたわけじゃないでしょ？それと同じ」
尚はここまでのし上がるために、色々な手段を使ってきたはずだ。私が今回やったことなんて些細なこと。
「尚には、やりたいことをやって欲しいんだよ。官僚でも、医師でも、それ以外でも。尚自身が納得して選んで欲しい。それを外野の人間が、可能性の1つを潰してしまうなんて、許せないの」
「A……」
「私には喜多見チーフみたいな、なんでも救える力はないけど、それでも出来ることがあるのなら、全力で尚のことを守るよ。ね？」
硬く握りしめられた、尚の拳に私の手を重ねる。私の手の大きさでは包み込むことは出来ないけれど、私の温もりを分け与えることなら出来る。
それが私の出来ること。
「…黙って守られてて欲しいのに」
「そういう柄じゃない」
「わかってた。Aのそういうところを好きになったんだって」
尚がふらりと立ち上がる。そのまま私に覆い被さるようにすると、唇が触れ合った。優しい優しいキスだった。
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作者名：みずたま | 作成日時：2021年9月13日 10時
