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目を開ける。霞む視界の中に、誰かがいる。
「なお…？」
無事だった？助けてもらえてよかった。
その姿に向けて手を伸ばすと、大きな手がそれを握ってくれて、ゆっくりと布団へと下ろされた。
「Aさん、喜多見です。わかりますか？」
「…あ、喜多見、チーフ？」
「はい。すみません、音羽先生じゃなくて。頭痛や、気分の悪さはありますか？」
「…いえ」
「よかった。もう大丈夫ですよ」
「なおは、だいじょうぶですか…？」
私のことよりも、尚のことの方が心配だ。姿が見えないことに不安になる。仕事をしているのならいいけれど、もし何かあったのだとしたら。
喜多見チーフは一瞬目を見張って、人のいい笑みを浮かべた。
「音羽先生も、大丈夫です」
「っ、ありがとうございます…」
よかった。尚の命が無事で。
手の甲を額に置いて、大きく息を吐き出す。
「音羽先生も、Aさんのこと心配されてました。素敵な関係ですね」
その言い方は揶揄うような雰囲気はなく、当たり前のことをただ言っただけという温度感だった。ただ、全てわかった上で言っている。そんな様子も見受けられる。
以前、尚に涙を拭われているところを喜多見チーフには見られていた。何か感じるものもあったのかもしれない。
「…はい」
このことを知ったからと言って喜多見チーフがどうこうしようとすることはないのは、今までの関係でわかっていた。だから素直に答えたって大丈夫。
なによりも、この人は尚の味方になってくれる人だから。
…そうだ、私にはしなければいけないことがまだ残っていた。
「…喜多見チーフ、私のスマホって…」
「ああ、ここにありますよ」
棚に置かれていたらしいそのスマホを受け取って、ギャラリーからデータの確認をする。
大丈夫だ。ちゃんと撮ったものが残ってある。
「喜多見チーフ、赤塚知事の連絡先を教えていただくことは、出来ますか？」
「…それはどうしてでしょう？」
「…尚を、守るためです」
喜多見チーフが尚の味方にになってくれるように、私だって尚の味方だ。
そのためなら、多少なりとも私の正義を翻したって構わない。
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作者名：みずたま | 作成日時：2021年9月13日 10時
